T h i n k i n g o f y o u





 寝転がったベッドは、気味が悪い程に弾力があり居心地が悪い。寝転がったままデカ過ぎる窓ガラスの外に目をやれば、此の(スバラシイ値段を請求してくる)高級ホテルご自慢の『絶景の夜景』とやらが広がっている。女は此れがお気に入りらしく、待ち合わせ場所には何時も此のホテルを指定してくる。
 シャワー室から響く女の声。
 「ねぇ、一緒に入らない?」
 「入らない」
 「そう。でも後でちゃんと入ってね?汗臭い人に抱かれる趣味はないの」
 閉め切った水音だけが、小さく部屋を占拠した。
 此の女に出会ったのは、二年前。仕事でたまたま知り合って、シロサギの情報源として利用した。其の時に(情報収集の為に)イロイロ奢ってやったら、俺を気に入ったらしい。月に何度か一緒に食事を取っては、ベッドを共にしている。ただ其れだけの関係だから、特に断る理由もない。
 俺も此の女は気に入っている。五月蝿く無いし、余計な詮索もしてこない。────煩わしい言葉も、掛けてこないから。


 「黒崎」と、俺を呼んでは、嬉しそうに微笑みを作る顔。


 サイドテーブルのランプのみを明かりで部屋は薄暗い。それでもバスローブを脱ぎ捨てた女の裸体は白く浮かび上がっている。ベッドに腰掛けたまま、女の手を引いて腕の中に収めた。女は口元に微笑みの形を作ったまま口付けてくる。そして俺のバスローブのヒモに手をかける。酷く手馴れすぎた動作だ。きっと何度も繰り返してきたのだろう。俺とも、他の男たちとも。
 此の女にとって、俺は代用品に違いない。何時だって取り替え可能な愛玩品。けれど、そんなことどうでも良かった。代用品であるのはこちらとて、同じことだ。
 女の唇から伝わる煙草の味。────あいつの唇は、こんな味しなかった。


 豊満な乳房を握って性器を愛撫する。
                  小振りな乳房を触れれば、恥ずかしそうな顔をした。

 煙草の味のする舌を絡めた。
                  飲み込んだ唾液は、綿菓子のように甘い。

 喘ぐ女が腰を振って誘う。
                  「好きよ」と囁く声に、何度泣きたくなっただろう。

 生理的な快感に、身体が酔いしれる。
                  快感に震える身体が、たまらなく愛しかった。


 どうしようもなく、自分自身に吐き気が込みあげた。



 「悪いけど、これから用事があるの」
 互いの体液やら汗にまみれた身体をシャワー室で洗い流した女が、ベッド脇に散らばった下着を拾って身体に纏って行く。時計はもう深夜の11時過ぎを示している。こんな時間から一体なんの用事があるのか。そんな疑問が頭を過ったが、勿論声には出さなかった。俺はベッドに横たわったまま「そうか」とだけ言って、染みヒトツない天井を見上げた。
 「ねぇ?私、貴方のこと結構気に入っているのよ」
 其の言葉に女に振り返ると、スカートのホックを留めているのが見えた。女がこちらに振り返って笑い、俺の額をさらりと撫で、触れるだけのキスを唇に与えられた。
 「でも、私と寝てる時に、他の女のことを考えてるのは頂けないわ」
 大きく目を見開いた俺を笑いながら、女は「また電話する」と言い残して部屋を出て行った。


 『あんたが好きよ。私のことを嫌いでも良い。ただ、此の言葉を覚えておいて』
 頭を支配し続ける言葉と、あの寂し気に微笑んだ瞳。



 とめどなく溢れ出すヒトツの感情にギリ、と唇を噛み締めた。此の感情は、絶対に押え付けて置かなければならない。絶対に。
 広すぎる室内を照らす事務的な蛍光灯がやけに眩しい。光を裂けるようと、俺は俯せになった。


 なぁ、分かってるか?お前の仕出かしてくれたことを。
 余計なものを、俺の中に残しやがって。


 噛み締め過ぎた唇の端が破け、血液の味が唇に広がってゆく。胸に渦巻く、ヒトツの感情と共に。


 ───俺は、お前が憎い。憎いよ。

 







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