シ ー ソ ー ゲ ー ム
「悟空さ、こっち向いてけれ」
「やだ」
「まだ、怒ってるだか?」
「当ッたりめぇだろ」
「許してくれねぇだか?」
「やだ」
此れを序章と呼ぶべきか、それとも執行猶予と呼ぶべきか──ともかく、悟空たちは恐ろしく・トテツモナく・珍しい局面を迎えていた。
いったい誰がこんな展開を予想できただろう?きっと神様だって驚いているだろう。彼等は結婚してまだ数ヶ月だけれど、互いの役割はもう数十年を共に過ごした熟年夫婦のように決定していた筈なのに。
新妻になったばかりのチチが、困ったような哀しそうな顔をして悟空を見上げている。そんなヨメに対し、新米の亭主である悟空は「オラ、今回ばっかりは、ぜってぇ許してやんねぇかんな」と彼女に背を向け、低い声でどすを利かせて居る。
普段、悟空の立ち位置はヨメの専売特許であった筈であるのに、どういうワケか、億に一つの確率で今回は悟空が獲得するに至ったのだった。
此の局面になって、かれこれ十分が既に経過している。
ケンカの原因は、本当はもの凄く些細なことであった。怒った態度を取り続けている悟空も、正直なトコロを言ってしまえば、そのコトをちっとも気になんかしていない。──ただ、奇跡にも近い此の状況を楽しんでいるだけである。初めて手にした役目に優越感を浸って、可愛いヨメの困り顔を見て(性格の悪いことに)愛でているだけなのだ。
「悟空さ、どーしても許してくんねぇのけ?」
「おぉ」
「絶対だか?」
「ぜってぇ、だ」
「悟空さ」
「ゆるさねぇぞ」
そうやってわざとツレナイ態度を取り続ける意地悪な亭主。まるで世界の支配者にでもなったかのような気分に浸る此の男は、まだ知らないのだ。おのれが井の中の蛙であることを。
「悟空さ」
「なんだよ」
「キス、していいだか?」
……んお!?今ナニ言った!?
「チチ、今はそーゆコト話てんじゃねぇだろ!?」
慌てて振り返る男の顔を優雅に包んだ白くて柔らかい手。天使よりも清らかに、チチは微笑んだ。
「悟空さがイヤなら、おらヤメるだよ?」
───もちろん、悟空が嫌がる筈も無かった。
完ッ璧に嵌められちまった。
後始末をするヨメをぼんやり眺めながらふと我に返り、なんとか威厳を取り戻す方法がないものかと頭を悩ませてみるものの、もう既に後の祭りだった。後始末を終えた小悪魔が、やっぱり天使よりも清らかに微笑んで悟空に問う。「悟空さ、夕飯何がいいだべ?」
「パオズザウルスのから揚げ」
答えてから悟空は頭に手を乗せたが、もう遅過ぎる。
「わかっただ」と、リビングを後にして行くチチ。
これじゃ、元の木阿弥だ。なんでこんなことになっちまうんだか。たまらず悟空は一人、リビングで項垂れた。
どうやら、悟空がヨメに勝てる日は果てしなく遠そうだ。
* * * * * * *
身体が熱い。熱い。熱い。熱い。
発熱源は、夫。彼に与えられた熱によってチチはいつも翻弄され、堕ちてしまう。
夫は猾い、とチチは常々思う。幼い日に心を射止められてからというもの、彼女の操縦権は夫の所有物だ。何時だって彼を喜ばせようと彼女は四苦八苦している。夜のお相手だって、そう。
固い支柱を収めた身体で夫の上に乗り、腰を振ることを覚えたのは何時だっただろう?覚えた理由は、夫が悦んでくれるから。ただ其れだけの為に、彼女は淫猥さを身に覚えさせる。───今夜だって。
此の身が夫の為だけに生きている。其れはもしかしたら過言では無いかも知れない。
最近ふとそんなコトを考えるようになり、けれども悔しいから絶対そんなこと教えてやるもんか、と心に決めた。
「チチ」と、熱に浮いた吐息と同時に囁かれた声に、互いの絶頂が近いことを予測する。
声に抑制が効かなくなる。胎内に収めた支柱が固さを増す。身体の熱が加速する。
────あ。
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