ハニー・ムーン





 彼等のハニー・ムーンは月に一度か二度。
 もっぱら、深夜から明け方にかけて行われ、夕方に終わる。



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 ゲームの徹夜明けのせいで、起きたのは昼に近い時間だった。
 「うわ、ひでぇツラ」
 リビングに出て一番に聞いたのは、何故か家族でなく親友の声。彼以外はどうやら家に居ない様だった。
 「お前が、約束の時間になっても来ないから、迎えにきてやったんだよ」と、頭脳優秀な親友は質問をする前に回答をくれた。「今日、一緒に論文終わらせるって約束したろ」
 「トランクス君、父さんと母さんは?」
 回転しない頭で2つ目の質問を問う。すると、無言でテーブルを指差された。視線をやれば、メモが一枚置かれている。筆跡からして、どうやら母から僕に宛てたものだ。
 「なんだ、またか」
 お前んとこの親もいいかげん仲が良いよな、と親同士からの付き合いである親友は、少し呆れたように言った。同意見の僕は苦笑するしか無かった。

 僕の両親は、いま新婚旅行に出ている。
 遅めの、ひっそりとした、それでも馬鹿に幸せな、ハニー・ムーン。


 筋斗雲が海面すれすれを走り、イルカが不思議そうにこちらを見ている。其れをふたりで静かに笑った。
 ハニー・ムーンに誘うのは、いつも夫の方から。むかしは、色々なコトが彼をせめぎ立て彼も其れに突っ込んでしまったため、あまり一緒に居てやれなかった。だからかも知れないし、違うかも知れない。
 ただ、なんとなく、妻と何処かに行きたいと思うから。ただ、それだけなのだ。
 交通手段には乗り馴れた車は使わずに、初めて出逢った時に一緒に乗った筋斗雲を使うことを夫は好んでいる。
 けれども、妻はあまりに久しぶりに乗る筋斗雲が少し恐かった。
 だから、スピードを出そうとする夫に懇願して、ゆっくりと雲を進めてもらうことにした。夫はやはり「こんなんじゃ何処行くのにも日が暮れちまうぞ」と文句を言ったが、それは勘弁してもらうしか無かった。だって、(身体の作りが違う夫には分からないだろうが)昔と違って身体が老い始めたのだから。
 時が流れ、目に映るものは全て変化してしまった。花は咲き、枯れてゆく。それと同じように、年を取ってしまった夫と自分。離れていたときもあったが、それでも、変わらずに共に生きている夫の存在を、チチはこのうえなく幸せに感じさせている。

 もうすぐ着くぞ、と夫の意思と共に南下しかし始める雲。知らない土地の空気が二人を覆い始める。妻は、夫の背中に頭を預けて、こくりと小さく頭を縦にふった。



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 さらさらさら、と砂が鳴る。
 掬い上げては落とし、また掬い上げてはまた落とす。まるで綺麗な砂は、何度も繰り返している筈の己の手を、それでも汚さない。無意識だけれど、それが面白くて楽しくて、砂浜に座り込んだ妻は其れを何度も繰り返している。彼女の夫は隣に寝転がり、何も言わずただそんな妻を見つめていた。

 ライト・ブルーの空。エメラルド・グリーンの海。乳白色の砂浜。
 そして、自分たち。

 砂遊びに止めて、妻は夫に向き直ると、彼の腹を枕代わりにころんと寝転んだ。白髪の混じり始めた黒髪を、彼女の夫は優しく梳いていく。
 「また、どっか行こうな?」
 妻は先刻したようにただ小さく、それでいてはっきりと頭を縦にふった。







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