@青峰&桃井SS/黒子のバスケ

「ねえ、どうして二人はつきあってないの?」
いったい何回目の質問だろう、と思う。
つきあってないことに理由が必要なほど、私たちはいつもセットなんだろうか?
帰り道を一歩前を歩く青峰を見ながら、桃井は首をかしげる。
小学生の頃から、ずっと見ている背中も、高校に入ってまた一回り大きくなった。




恋愛じゃないけど、はなれられないの。



「じゃあまた、桃っち!」
「またねー、きーちゃん。」
最近一緒に試合観戦をしてから、また少し黄瀬と連絡を取るようになった。
桃井は黄瀬と電話するのが結構楽しい。
女の子には無条件に優しく、今の桃井の立ち位置と感情を一番に理解しているのは、黄瀬だとすら言えるかもしれないから。
「テツくんとは高校が離れちゃったからなー」
桃井が黒子を好きなことを知っているのは中学の同級生くらいなので、
今の高校では黒子の存在すら知っている人間はほとんどいない。
しかも、その中学時代でさえ、桃井は青峰とつき合っていると思っている人間が大半であったことが、また困ったことなのだ。
高校でも、結局また、盛大に誤解されている。

クラスメイトにでさえ
「どうして、二人はつきあってないの?」
とか言われる事実に、いつも桃井はどうしようと途方に暮れる。

「なんで不思議なの?」
「もう、雰囲気がね、夫婦の域なのよね、世話焼き嫁とゴーインマイウェイ旦那」
「あいつが他の女子と絡まないからそーみえるだけだよー」
「違うの、二人の間には、もう入れない空気があるのよ。二人だけの秘密がある、みたいな」
「秘密ってないよ、そんなの」
そう、別に秘密ってないの。桃井はそう思っていたのだけども、
その空気が漂っていると言われて、少し思い当たるものがあった。

でも、それは秘密ではない。

二人の間にあるもの、それは確執で、声に出せないわだかまり。



「おまえ、早く、彼氏作れよ。」

「!?なにそれ」
「今日もおまえとつき合ってるのかって言われた。まじうぜー」
他の部員のもう全員帰った部室で、青峰がだるそうにそう言った。
彼はいつもだるそうにしている。それは中学の終わり頃からでてきた態度であり、
高校に入ってまたひどくなったものだ。
前は、そうではなかった。その頃のことの方が不思議になるほどに、最近の彼は、だるそう、である。
青峰もまた、なぜ付き合っていないのか、と言われることが多いらしい。

「わたし、テツくんが好き。」
真顔で青峰をまっすぐに見て桃井は答えた。
フン、という顔をして青峰が桃井を見下ろす。

「テツと、お前ほんとにつき合いたいの?」
「大好きよ。」
「あいつとなら、キスできる?セックスできんの?」
あんまりにもあからさまな言葉にさすがに桃井も顔を赤くする。
「なにそのいいぐさ、やめてよ、そういう言い方は」
幼馴染という立場の青峰と、そういうあからさまな話はしたくない。

青峰は知って知らずかおかまいなしに続ける。
「お前の、テツへの感情が、アイドルへの好きか、男へのそれか、ってことだよ」
「それが、青峰くんになんの意味があるのよ」
内心、ドキドキと動機が早くなってきている。
『テツくんが好き』何度青峰に独り言を聞いてもらったかわからない。
中学の頃からずっとそれを聞いてた青峰、とくに聞かされながらなんの反応もなかった青峰。
聞かされて、今までどう思っていたか、なにも言っていなかった青峰の言葉を、中学の頃の桃井なら聞きたかった。
『応援してやる』と言わせたかったから。
でも、今は聞きたくない、もういい。

だって、今から言う言葉は絶対応援の一言ではないだろうから。

夕日の差し込む逆光の窓の側から青峰が見下ろしている。
「好きだといいながら、お前はまるでテツからの見返りを求めない」
言外ではあるが、お前の好きってその程度、と言われた気がして、桃井は怒った。
怒って、泣きたかった、違うと言いたい。
桃井が無言で怒っているので、青峰がまた話した。
「お前の曖昧さも、テツの優柔不断さもイライラするんだよ」
「私が、いつ曖昧だったのよ!」

「俺よりテツを選んで、同じ高校に行けば良かったんだよ、お前」

タンタンと言われた言葉に、桃井はあからさまにぎくりとした。
「いつまでも、お前の意思で、俺の側を離れないから、誤解されるんだよ」
うぬぼれとも取られかねないおごった言葉だったが、たしかに桃井の意思で、いつも青峰の側にいる。

側から離れられない。

怖くて。

離れて一人にしたら、もっと変わっていってしまいそうで。
桃井が離れずにいても、青峰が変わっていっているのに。
まだあきらめきれなくて。

笑ってよ、ねえ、心から笑って、また、楽しそうにバスケしてよ。

桃井の目から小さな涙が流れ落ちる。
「そんなに、離れてほしいの?」
青峰も、なぜ桃井が青峰を放っておかないか、理由をわかっているはずだ。
応えられないから、わかっているのに、わからない振りを続けているだけだ。
泣く桃井を、青峰は静かに見つめた。

「お前が、いつまでも誤解されて、嫌だろう。」
言って。手を伸ばして。

泣きながら目を逸らさない桃井の頬を、ぬぐいながら首筋まで撫でた。

引き寄せて、抱きしめても良かったけれど、桃井が望むこととは違うし、
そんなことでは慰められない。
抱きしめても良かった、それで解決する涙だったなら。

頬の涙を青峰の大きな手が拭い、その珍しい優しさがまた桃井を傷つける。
「いつになったら、安心して離れさせてくれるの…?」
離れる日が来るのだろうか。
青峰とテツくんへの感情は天秤にかけられないほど、青峰も結局大事な桃井なのだ。

その問いかけは、今日も無言で無視された。
ああ、やっぱりぜんぜん優しくない。

ひどい男。

横を向いて、彼は今日も応えてはくれない。

「さつき、もう、帰ろうぜ…」



                                     end.



あとがき。
桃井と青峰のコンビを自分解釈するとこうなってしまう。
青峰の心が晴れたとき、やっとお互いの道を進めることができるだろう。
桃井の女の子っぽい複雑さと、青峰の不器用さを書きたかったSS。


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