@地獄先生ぬ〜べ〜/玉藻&いずな
高校には、無事進学した。
お世話になった奴がいるんだけれど、進学以来会っていない。
世話になった受験勉強が終わってしまって、他に口実が見つからないからだ。
まだ奴はこの町にいる。この距離ならばいつでも会えると思って、つい会いに行くのをやめてしまう。
奴は、帰り道を、いずなとは時間差で同じ帰り道を通ることを知っている。
(…なんでかな。)
遠めにその背の高い姿を見るたび思う。
あの男は、鵺野鳴介を追って、この町に来たはずだ。
(…もう、用はないんじゃないかな…)
追っていかなかったのだから、未練はないんじゃないのだろうか。人間にも、この町にも。
新しい関係。
「ごめーん、いずな!先・帰ってて?」
こそっと、隣の席からHR中に話しかけられる。
横目に見た女クラスメイトの顔は、ちょっと上気した頬にゆるんだ口元をしていた。
「…彼氏でもできたの?」
「違うの、まだまだこれから。頑張ってるところ」
なにを頑張ってるのかわからないが、高校での友人も目前に迫った夏休みと、
打ち解けてきた男子クラスメイトを前に、『そういう』時期に入ったらしい。
「彼氏が出来たら、彼氏の友達紹介しようか?」
「いいって、その前の段階なんでしょ、まだ。」
「夏休み前には、決めたいところだなー。」
隣の、やに下がって緩んだ顔を見る。甘い顔。なんかすごい幸せそう。
身近のこういう顔って、すごく可愛いと思うのと、嫉妬と半分半分だと思う。
男か、と小さく呟いてみて、いずなは先延ばしにしていた事を思い出した。
「私も…夏休み前には、ケリつけたいなー…」
(口実とか難しく考えるからいけないんだ!)
とにかく行動あるのみ、といずなは帰り途中のUFOキャッチャーの前まで歩いてきて、立ち止まった。
というか、歩いていこうとして、その一歩前で立ち止まった。
いつもならあと一時間は自分より遅い時刻にこの場所を通るはずの玉藻がそこにいた。
「…玉藻」
いずなはどういう顔をしようかとすごく中途半端な笑い顔しか出来なかったのに対して。
つい昨日会ったみたいな顔ですごく自然に玉藻はいずなを見返した。
「受かったか、高校。」
「うん、受かった受かった。ぜんぜん平気。サンキュー、玉藻。」
そこで、会話が止まった。
いずなの言葉に頷くと、玉藻はそのまま帰り道を歩き出したので、いずなは驚いた。
(あれ?会話終わり?これでいいの?!)
アタフタとこの後どうしようかと5メートルほど玉藻の後をついていったところ、玉藻が振り向いた。
「なんだ、用があるのか」
「よ、用は、ない」
本当に用はないので、後をついていった理由に、苦し紛れにいずなは赤い顔で玉藻を睨んだ。
「用がなくちゃ、ダメなの?」
「いいぞ。別に。おまえの忘れ物もあったからな、シャープペンシル。」
あまりの成り行きまかせっぷりにいずなは眩暈がする。
(シャーペン受け取ったらすぐ帰るべきかな、どうかなあ…)
驚いたり焦ったりで、玉藻に調子崩されっぱなしでいずなは途方にくれていた。
(玉藻のテンポってちょっとおかしいよなー、表情変わんないし…わかんないなー)
玉藻は玄関をあがって、ごく自然にキッチンまで行ってしまった。
この部屋は、殺風景で、生活するための最低限の設備しかない部屋だ。
この春先まで、いずなはここで玉藻に勉強を教わっていた。
今日は勉強を教わりに来たのではないし、どうしたもんかと思い、突っ立っていたら、
玉藻によって、テーブルに二つコーヒーカップが置かれた。
そのまま玉藻は座り、一人でコーヒーを啜っている。
いずなも何もしようがなくて、向かいに座ってカップを持った。
(「用がなくても会いに行く」のって、やっぱあんまり出来ないものだな…
恋人とか仲のいい友達とか、自分に好意を持ってくれているってわかってる人じゃないとこの時間は辛い…)
それ以外には。
(それ以外には、わけ隔てなくどんな人間も扱えるような人とか…)
人間どころではなく、妖怪まで分け隔てなく扱える半人間(真人間とは言いがたい)を、そこで思い出した。
「ねえ、玉藻」
向かいでこちらに顔を向けた玉藻に、いずなは疑問に思ってたことを言う。
迷ったけど、他に話すこともない。
「どうして、まだこの町にいるの?」
「質問の意図を図りかねる。」
玉藻はほんとにわからないって顔をした。
「だって、ぬ〜べ〜に興味があったんでしょ?ぬ〜べ〜を追っていかなくて良かったの?」
「新婚生活に水を差すような、野暮なことはしたくないな。」
(「…ねえ、もうこの町に用はないんじゃないの?」)
そう返してしまいたかったが、あまりに失礼だったから、思いとどまる。
玉藻は視線をいずなから逸らさない。
いずなが飲み込んだ言葉に、気づいたみたいだった。
玉藻がいずなを見返した。
「私は、鵺野鳴介と、その周りの人間を見てきて、人間自身にも、結構興味を持ち始めているんだが。」
いずなに、その言葉は端的で、単純で、とてもわかりやすく、素直に響いた。
答えになったかな、とでも言うように、言い終わってから玉藻は小首をかしげた。
「…人間、面白い?」
「なかなか」
笑いもせずに、そんなことを真顔で答える。
いずなは、鵺野鳴介の側の玉藻しか知らなかったが、
人間「玉藻」の日常にかかわるほかの人間もいるということを失念していた。
表情もほとんど変わらないからわからないが、もしかしたらそんな人間生活も楽しんでいるのかもしれない。
「私、ぬ〜べ〜を見続けてる玉藻しか知らなかったからな〜…」
「微妙に、誤解を招きそうな表現はよしてくれ。」
「えっと、でも一番人間の中で好きなのは、ぬ〜べ〜でしょ?」
「好きという表現は間違っている。一番興味が深いだけだ」
(一番、に変わりはないと思うけど。)
「はっきり言って、お前もなかなかおかしい。」
「はあ?!何いってんの、どこがおかしいのよ!」
「さっきまでうつ向き気味だったのに瞬時に沸騰する。見ていて飽きない、コロコロ表情が変わるところ。」
「私は見世物じゃないのよ!おかしいってなによキー!」
「異能者というのも鵺野を抜かせば一番近い位置に今いるのはおまえだし。」
とにかく「おかしい」という表現が気に入らなくて、いずなはブスっとした顔をする。
「今度は観察の対象を私にするの?ダメだよ浮気は。玉藻はぬ〜べ〜一筋でいたらいいわ。」
「その誤解はいつになったら解けるのだ?」
心なしか声も表情もうんざりしたような雰囲気を見せて玉藻は頬杖をついた。
「そうね、玉藻が女を好きになったら、誤解を解いてもいいよ。」
「…美人の管狐でも見合いに持ってくるつもりか?」
「人間でいいじゃん」
「鵺野鳴介以上に興味深い対象はいないな。」
そんなことを言っているから、誤解されるんだということに気づかないらしい。天然なのだ、この妖狐は。
それから、玉藻はいずなを一瞥してから目を逸らし、ほんの小さく口を歪めて、たぶん笑ったんだと思う。
「?なに?」
「いや、可能性はゼロじゃあないな。」
「そうだよ、玉藻ほど美人なら、主婦だって小学生だって落とせるよ!」
「…だからな…美人という表現はやめろ。」
小さく、たぶん笑ったんだと思う。
そんな笑い方も、表情も珍しかったから、用がないけどここに来て、いずなは良かったと思った。
用がなくても、ここに来てもいいか、あとで玉藻に聞いてみようと思う。
近くにいたら、そんな珍しい表情が、また見れるかもしれない。
先ほどの小さな笑いに、きっと甘くときめいた。
END。
あとがき:
タイトル「新しい関係」は鵺野先生転勤後の捏造設定、玉藻&いずなに期待がこもっています(笑)
いや、捏造だけど!萌えるんだよ!という。うん、美少女&美青年は夢があります。
でも根本的には、玉藻からもいずなからも鵺野先生に矢印が向いていると思う。(ライバル的・師匠的な意味で