11 ルネサンスの終末
  オルランド・ド・ラッスス/聖ペテロの涙
  Prlamde de Lassus(1532-1594)/Lagrime di San Pieto

ラッススはフランドル楽派後期の代表的な作曲家であり、パレストリーナと並んでルネサンス音楽の最後を飾る作曲家のひとりでもあります。作風としてはフランドル楽派の音楽を継承し、音楽形式はどちらかと言えば保守的な傾向があります。

けれど、その組み上げられた構成が一歩間違えば崩れ落ちかねないような、強い表現意欲をもった曲想はバロック的なものを志向していて、強い感情と一種の危うさが感じられます。

《聖ペテロの涙》はラッススの最後の作品です。その晩年には「憂鬱症」に陥っていたラッススが、イタリアの詩人タンシッロ作の宗教連作詩集《聖ペテロの涙》から選んだ20篇のテキストに作曲したこの曲は、「宗教的連作マドリガーレ」と呼ばれています。

テキストの土台になっているのは、福音書の「ペテロの否認」のエピソードです。ペテロはイエスから「あなたは今夜、鶏が鳴く前に、三度私を知らないと言うだろう」と予言され、これを否定するのですが、いざイエスが捕らえられると予言通りの行動をとってしまいます。イエスの予言通りになったことに気づいたペテロは、外に出て号泣したのでした。

ラッススが《聖ペテロの涙》の序文を書いたのは、その死の三週間前であったと言われています。ラッススがこの曲を自分の最後の作品と自覚して作曲したかどうかはわかりませんが、確かに「白鳥の歌」にふさわしい、劇的な緊張感に満ちた作品です。


 
【 Reference Disk 】
ウエルガス・アンサンブル盤 パウル・ファン・ネーヴェル指揮/ウエルガス・アンサンブル
 《聖ペテロの涙》
 1991年録音 SONY CLASSICAL [SRCR 9430]

当時の演奏習慣を取り入れた、重唱と管楽器とチェンバロによる多彩な編成での録音。低音を重視したウエルガス・アンサンブルの演奏は、この曲のバロック的な側面を明確に反映させた演奏で、一歩間違えれば崩壊しそうな緊張感を漂わせています。

ヘレヴェッヘ盤 フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮/Ens. ヴォカーレ・ヨーロピアン
Philippe Herreweghe :director/Ensemble Vocal Europeene
 《Lagrime di San Pietro》
 1994年録音 (仏)Harmonia Mundi [HMC 901483]

深刻で劇的な雰囲気を醸し出した重唱による演奏。歌手たちのアンサンブルの緻密さは群を抜いています。冷静で知的なアプローチによるたっぷりとした声と旋律の自然な美しさが、かえってこの曲の深刻さを浮かび上がらせているようです。


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