鋼の錬金術師
     〜ケリーヤーンの梟〜
汽車。揺れる車内と、小気味よいタイヤの音。響く汽笛。
「アル、次の街はどんなトコだったっけ?」
赤いコートを着た少年が、対面に座る鎧の大男に話し掛ける。
「次は・・・ヤーンだね。温泉だよ兄さん。」
見た目に似合わない口調で、兄(これも見掛けに依らない)の問いに答える。
「げげ、ヤーンかよ・・・厄介な所にぶち当たったモンだ。」
「ボクの方もそうだけど、兄さんはもっと気を遣わないと・・・。」
「あぁ、分かってる。これだからオートメイルは・・・。」
そう言って右手を確かめる様にさすり、左足を踏みしめる。
「・・・素通り・・・ってのはどうだ?」
「兄さん、気持ちは分かるけど・・・」
「う〜ん、気が乗らねぇなぁ・・・と言ってる間に到着だ。行くぞアル。」
「列車が止まってから席をお立・・・って、聞いてないね、兄さん。」
旅の錬金術師・エルリック兄弟は、東部最大の温泉街ヤーンの地に降り立った。
「お〜お〜、アレが彼の有名な活火山・ケリーヤーンかぁ。」
もうもうと煙を噴き上げる山を見て、エドワードはそう言った。
「そのお陰で温泉が湧くんだね。ボクらにとっては迷惑な話だけど・・・。」
「ボヤいてても仕方ないさ。取り敢えず宿に・・・って、温泉宿は勘弁だなぁ。」
賢明な読者諸君(笑)なら既にお分かりと思うが、
兄エドワードは右手と左足が機械鎧(オートメイル)になっている。
弟アルフォンスは、全身鎧に身を包み・・・いや、鎧自体が彼の身体だ。
金属のアクセサリーを身につけたまま温泉に入ると、
その金属が黒く変色するのはご存じだろう。
温泉中に含まれる硫黄が金属と反応して変色する。
要するに、この兄弟は自分の身体(の一部)がそうなる事を危惧しているのだ。
「まぁ、歩きながら考えようか、弟よ。」
「そうだね。」
この街は温泉街という事もあり、そこそこ人で賑わっている。
温泉目当てにこの街へ来た者、それを客に商売する者、
はたまた温泉を掘り当てようと思い描く者・・・様々な人がここに居る。
「ちょっとそこの大きいの!ちらっと寄ってかないかい?」
「そこ行く鎧のおニィさん、ウチは安いよ〜。」
「この宿はサービスいいよ〜、泊まってってよ兵隊さ〜ん。」
色々な所から声が掛かる・・・が。
「・・・何か、お前にばっかり声が掛かるなぁ、アル。」
「そ、そうだねぇ。な、何でかなぁ・・・?」
人混みの中で、鎧ずくめのアルは目立つ。甚だ目立つ。
それに引き換えエドワードは・・・一言で表現するならば「見えない」。
「さぁさ大きいお兄さん、ウチに寄ってって・・・そっちのおチビさんも一緒にさ。」
「あ・・・。」
禁句。
「どぅゎぁるぅぇぇぐゎぁぁ超マイクロどチビだとぅぉぉぉぉぉぅ!!!」
兄の予想通りの反応に、弟は頭を抱える。
大暴れ。周囲の人達を巻き込んでの漫画的大乱闘。
「に、兄さん・・・。」
「ふぅ〜っ、ふぅ〜っ・・・」
暴れ終わったエドワードを、アルがなだめる。
「と、ところでおじさん、こんな火山のすぐ近くで、大丈夫なの?」
話を変えようと、近くの人に山の事を尋ねてみるアル。
「ん・・・あぁ、ここに街が出来てから数百年、一度も噴火してねぇから大丈夫!」
「でも、洗濯物とかはどうしてるんだ?灰が掛かったりしないのかよ?」
正気に戻った(笑)エドワードも続けて問う。
「んなモンは気合いだ、気合い。はっはっは!」
それで本当に良いのか・・・と思いながら、二人は逃げる様にその場を立ち去った。
街の中心部から少し外れて、民家が疎らになってきた。
火山地帯の所為なのか、辺りにあまり緑は見られない。
ケリーヤーン自体は、全くの禿山だ。
「郊外に来てはみたものの、宿はどうするかなぁ〜・・・」
「温泉宿だと絶対温泉勧められるだろうしねぇ。」
悩みながら歩いていると、前方から声が。
「やいこら、落ちこぼれ!お前みたいな能なしは見た事ないぞ〜!」
「そうだそうだ、根性無し!悔しかったら・・・」
数人の少年(10歳前後だろうか)が、一人を寄ってたかって苛めている。
「・・・やれやれ、どこの世界にもああいう奴等は居るんだなぁ。」
「放っておいていいの、兄さん?」
「オレ達が手助けしたって何の解決にもならないだろ?」
「そりゃぁそうだけど・・・。」
そのまま立ち去ろうとする二人。
「そら、やってみろ〜。こんな初歩の初歩も出来ないのか〜?」
「わ、分かったよ。やるよ・・・」
と言った瞬間、まばゆい光と共に現れた・・・巨大な石柱。
「んなっ・・・!?」
それを横目で見ていたエドワード、その光景に思わず足を止める。
「うわ〜、また失敗してやがんのコイツぅ!ダッセ〜!」
そう言いながら、少年達は地面にうずくまる一人を残し、去っていった。
「・・・おい、お前。」
その場に残った一人に向かって、エドワードは声を掛けた。
「おい、聞いてるのか?」
「ちょっと兄さん・・・。」
無理矢理起こそうとする。止める素振りを見せるアル。
「あ・・・あ、すいません、何ですか?」
そう言って起き上がるその・・・青年。いや、まだ少年なのだろうか。
完全に立ち上がると、エドワードより頭一つ大きい。
「・・・おい。お前はそんなナリしてあんなガキ共に苛められてたのか!?」
「はぁ、ごもっともで・・・。」
気弱そうだ。年の頃は・・・16〜7歳といった所か。
「まぁそんな事はいい。アンタ、錬金術師か?」
「え・・・まぁ、全然落ちこぼれですけど・・・。」
初歩の初歩も出来ない・・・先程そう言われていたのを思い出した。
「その落ちこぼれが、こんな巨大な錬成を錬成陣も無しに・・・何故だ?」
「そう言われても・・・ところであなた方も錬金術関係の方ですか?」
「一応・・・な。」
少し目線を落とす。
「あ、あの・・・もし良かったら、僕に錬金術のコーチをしてくれませんか?」
「・・・は?」
「先程から聞く限りは、それなりに錬金術を使う事が出来るご様子なので・・・。」
「そりゃそうだけど・・・」
「お、お願いします!そうだ、僕の家に泊まって行って下さい!ね、ね?」
キラ〜ン。エドワードの目が怪しく光る。
「あ、タダで泊まろうとしてる・・・。」
ボソっと呟くアル。
「いやぁ〜、オレで良かったらちょっとぐらいはコーチしてあげるよ、うんうん。」
「やっぱり・・・。」
こうして、温泉街から離れた所に一晩宿を取る事が出来たのだった。
「あ、ここです。」
暫く歩いた後、古びた屋敷の前に辿り着いた三人。
「屋敷・・・金持ちなのか?」
「兄さん、そういう聞き方はないと思うなぁ。」
「両親が錬金術師をしていましたから・・・もう昔の話です。」
そう言うと、表情が暗くなる。
「さ、どうぞ。汚い所ですけど。」
「そんな事ないさ。」
悪い事を言ったかな、と思ったエドワードは、そうフォローしておいた。
すると、屋敷から執事らしき老人が一人出てきて、声を掛けてきた。
「ぼっちゃん、お帰りなさいませ。お客様で?」
「ただいま、ペドロフ。そう、ちょっと知り合いになってね。」
「どうも、アルフォンスと言います。こっちは兄のエドワード。」
「エドワード・エルリックだ。よろしくな。」
両手を組んで頭の後ろへ。あまり態度はよろしくない。
「そう言えば名前を言っていませんでしたね。僕はマコニー。こっちは・・・」
「ペドロフさん、ですね。お邪魔します。」
今度はアル。丁寧に答える・・・が、他人の言葉に割って入るのは良くない。
「執事をしております。以後お見知り置きを。」
「ペドロフ。こちらお二人とも、錬金術師なんだって。」
「ほほぅ、錬金術を・・・はて、エルリック・・・錬金術師・・・」
何かに気付いたペドロフ、驚いた様に続ける。
「もしや、鋼の錬金術師・エドワード・エルリック殿では?」
「お、流石は錬金術が盛んな街ヤーンなだけはあるな。その通りだよ。」
「え・・・国家錬金術師の!?こ、こんな小さ」
「あ〜ストップ!」
慌ててマコニーの口を塞ぐアル。いやはや、困った兄を持つと苦労する。
「???」
何やら訳が分からないマコニーを余所に、中に入る様に勧めるペドロフ。
流石年の功、どういう事か理解した様だ。
屋敷に一歩踏み入ると、正面に大きな肖像画が。この屋敷の主人とその妻であろうか。
その上には梟を模した紋章が・・・。
「梟・・・?もしかして、”ケリーヤーンの梟”の屋敷か、ここは!?」
驚くエドワード。
「兄さん、ケリーヤーンの梟って何の事?」
「お前知らないのか?20年程前、首都で大火災があったんだ。
  辺りは炎に包まれ、人々は逃げ場を失った。その時、火災を消し止めたのが・・・」
「そう、僕の両親です。そして父と母は、”国家錬金術師に並ぶ”とまで言われました。」
「その時から、旦那様と奥方様は民衆にそう呼ばれるようになったのです。
  火山の街に生まれ育ち、その身に着けた梟の紋章から・・・」
ケリーヤーンの梟。それ以来、この街では錬金術が盛んに学ばれる様になったと言う。
「父と母は、僕の目標なんです。いつかきっと・・・」
「そんな英雄の息子が落ちこぼれかよ・・・」
「に、兄さん!」
「・・・いや、いいんです。本当の事ですから・・・。」
そう言って、部屋に案内される。
「今日はここをお使いになって下さい。食事もご用意致します。」
綺麗に片付いた部屋。家具が一式にベッドが二つ。
「まぁ、なんだ・・・取り敢えずさっさと始めないか?」
「あ、そうですね。じゃぁ、外に行きましょうか。」
どうやら、自分が錬金術を使うとどうなるかが分かっている様だ。
そして三人は、屋敷の庭を目指すのだった。
地面に錬成陣を描くマコニー。
「間違っちゃいないな・・・錬成式はどうなんだ?」
「え〜っと・・・こんなですけど。」
「ん〜・・・これで何で失敗するんだ、こんな初等錬金術を?」
初等錬金術。錬金術の入門編。ここでは、石の形を変える。
丸みを帯びた石を、角張らせるだけの簡単な錬成。
形を変えるだけなので、等価交換の大原則に背く様な事など絶対にない。
だが、目の前に現れるのは・・・巨大な石の門。
「何でだ・・・?」
続いて、枯れ枝。少し曲がった枝を、真っ直ぐにする。
ただそれだけなのだが・・・やはり現れるのは、巨大な蛇の様な木。
やればやる程増えていく。大きな池、山のような蝋燭、波打つ鉄板・・・。
「何でだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
分からない。頭を抱えて悩むエドワード。
「マコニー、お前フザケてんじゃないのか!?」
「そんな事・・・」
「だぁったら何でこんなになるんだぁぁぁぁ!?」
転げ回るエドワード。滑稽である。
「やっぱり駄目だよ・・・。」
ピタリ、エドワードの動きが止まる。
「やっぱり僕には才能が無いんだ・・・。」
それを聞いたエドワード、いきなりマコニーの頬を殴り付ける。
「テメェ、今何て言った!?才能が無いだ?甘えるのもいい加減にしろ!」
「兄さん!」
「あ・・・う・・・」
右の頬を抑えながら、マコニーはその言葉を聞いている。
「いいか、よく聞け!
  ”才能”なんてのは、努力をしてない奴が努力をした人間に対してする敗北宣言だ!
  どんなに努力して、どんなに頑張って・・・それが結果に繋がり難い事だってある!
  だけどなぁ、そこで”才能が無い”なんて言っちまったら、そこで終わりなんだよ!」
そして胸ぐらを掴み上げるエドワード。
「お前はこんな事で終わりなのか!?オレは何の為にここに来たんだ!?
  両親が目標なんだろう!?お前の決意はそんなモノなのかよ!?」
「・・・・・・・・・」
沈黙が辺りを支配する。吹き抜ける風の音が妙に大きく感じる。
胸ぐらを掴んだままのエドワード。じっと目を見詰める。
そして、すっと視線を落とした時に何かに気付く。
「・・・これは・・・おい、これってまさか・・・!?」
マコニーの首に下がったペンダント。その先に青い小さな石がはまっている。
それをもっとよく見ようと思ったその時・・・。
大きな地震。急なその揺れに、三人共立っている事が出来なかった。
「な、なにが!?」
状況を把握出来ないアル。そこへエドワードが指を差す。
「あっちを見ろ!あ、あれは・・・」
屋敷の門の向こう、空を覆う黒い煙・・・ケリーヤーンの方角だ。
「まさか!?今まで一度だって噴火した事ないってさっき・・・!」
「ぼっちゃん!」
兄弟が叫ぶ様に話していると、屋敷から執事が走ってくる。
「ぼっちゃん、早くお逃げ下さい。このままでは何れこの屋敷も・・・。」
「そうだ、早く逃げた方がいい!アル、行くぞ!」
そう言って逃げ出そうとするエドワード。アルを促す。
「そうです、あなた方も早く・・・ぼっちゃんを頼みます。」
「頼みますって・・・ペドロフさん、あなたは?」
「私は旦那様と奥方様に生前、大変良くして頂きました。
  ですから私は、お二人と同じこの地に骨を埋めるつもりで居りますので・・・。」
そう言って優しく微笑む。
「ぼっちゃん・・・強く、強く生きて下さい・・・。」
マコニーにそう告げて、一人屋敷に戻ろうとするペドロフ。
「でも、ペドロフさん・・・」
止めようとするアル。それでも、この老人の意志は固い。
「に、兄さん・・・。」
「諦めろ、アル。あの人にはあの人の生き方がある・・・。」
「・・・・・・。」
そう言われて、仕方なく引き下がろうとした時・・・。
「・・・あれ、マコニーさんは?」
「え?・・・あ、あそこだ!」
見ると、そこにはマコニーの後ろ姿。その先には・・・黒く染まる空が広がっていた。
(・・・僕が、僕がこの街を・・・ペドロフを死なせはしない!)
混乱する人々の間を縫って、一人山の方に走っていくマコニー。
(父さん、母さん・・・僕に力を貸して・・・!)
「どけぇ、邪魔だぁ!」
「うわっ!」
正面から走ってきた男に突き飛ばされて、マコニーは倒れ込む。
「くそぉ・・・僕は・・・僕は・・・」
「マコニー!」「マコニーさん!」
エルリック兄弟が追い付いて来て、声を掛ける。
「お前、何やってんだ!何をするつもりだ!?」
「そうだよ、ここは危ない!早く逃げるんだ!」
そう言ってマコニーを連れて逃げようとする。
「・・・・・・嫌だ・・・」
「何!?」
「嫌だ・・・もう逃げない・・・僕はこの街を守るんだ・・・!」
また走り出そうとするマコニーをエドワードが制止する。
「馬鹿野郎!そんな事したって、ただの無駄死にだ!分からねぇのか!」
「そうだよ、もうすぐ溶岩が街に流れ込む・・・ここは危険だよ!」
「無駄じゃない!僕はケリーヤーンの梟の子だよ!一人でも多くの人を助けるんだ!
  それにペドロフだって・・・ペドロフは父さん母さんが死んだ後も、
  屋敷を出て行かずにずっと僕の世話をしてくれたんだ・・・だから・・・。」
キッとエドワードの目を見詰めるマコニー。その瞳には、意志の炎が宿っている。
「・・・守るって、どうする気だ?」
「分からない・・・分からないけど、僕はやるんだ!」
その意志は変わらない。
「言っただろ、”お前一人が”行った所で無駄死にするだけだって・・・。」
「でも・・・」
そこで一度大きく息を吐く。そして続ける。
「お前一人じゃなきゃ無駄死にじゃない、って言ってるんだよ、オレは。」
「え、それって・・・」
「飲み込みが悪いな。そんなだからお前は落ちこぼれなんだよ。さぁ、行くぞ!」
「あぁ・・・うん!」
明るい表情で走り出す。その身は軽い。
「全く、ひねくれ者の兄を持つと苦労するよ・・・。」
「何か言ったか、弟よ。」
「別にぃ〜。」
街の直ぐそこまで迫った溶岩に、三つの影が向かっていった・・・。
「このペンダントは・・・両親の形見なんです。」
走りながら話す三人。マコニーが懐からペンダントを取り出しつつ言う。
「そうか・・・そのペンダント、賢者の石だな。」
「賢者の石って・・・あの賢者の石!?これが!?」
賢者の石。伝説の錬金術増幅装置。
等価交換の法則を無視して、莫大な力を導き出す神秘の石。
エルリック兄弟は、この賢者の石を求めて旅をしているのだ。
「マコニーさん、いつもそれを身に着けていたんでしょ?」
「えぇ、そうです。」
「錬金術が上手く行かなかったのはその所為だな、きっと。」
「どういう事ですか?」
「要するにだ。力が強大過ぎてコントロール出来ていなかったんだ。」
「その証拠に、錬成自体は出来ていたでしょ?結果は別として。」
「・・・まさか、お守りとして持っていたコレが原因だったなんて・・・。」
複雑な表情のマコニー。二人は更に続ける。
「・・・そこで、だ。その石をあの溶岩にぶち込んで、
  丸ごと全部錬成してやろうってのがオレの作戦だ。」
「全く、無茶な事考えるよ、兄さんは・・・。」
こんな切迫した状況でも、どこか楽しそうな二人。
「多分、その石はもう無くなっちまうだろう。溶岩に埋まるだろうからな。」
「それでも・・・いいね?」
黙って頷く。
「この街の人達を守る為だったら、父さん母さんも許してくれると思う。」
「あぁ、そうだな・・・さて、そろそろ始めるか!」
山の麓。かなり溶岩に近い場所。背後には、ヤーンの街が怯える様に横たわっている。
「アル、準備してくれ。マコニー、こっちも準備だ。」
「分かったよ兄さん。」
「了解。で、何をすれば?」
言われて、アルは準備を始める。マコニーもやる気だ。
「そのペンダントに、錬成陣を描いて貰いたい。」
「ぼ、僕が?」
一瞬尻込みするマコニー。
「お前がやらずに誰がやる?」
「・・・分かった、やってみるよ。」
ペンダントに錬成陣を描き始めるマコニー。以前の様な迷いは無い。
「兄さん、準備出来たよ。」
と言ったアルの傍らには、大砲・・・小さな大砲が置いてあった。
勿論、錬金術で作り上げた物。鉄や薪、油等を使って作ったのだ。
「よし、こっちも準備OKだ。マコニー?」
「・・・うん、出来たよ。」
「どれ・・・あぁ、完璧だ!」
手渡されたペンダントを見て、エドワードは親指を立ててそう言った。
「これをこの大砲で打ち出す訳だが・・・問題は、だ。」
大砲に寄りかかる様にして、鋼の錬金術師は続ける。
「発射角度と錬成のタイミングと・・・あの石との”繋がり”だ。」
「繋がり?」
「そうだ。手元から離れている物から錬成する訳だからな。
  それが一番の問題なんだ・・・が、マコニー。お前なら出来るだろう?」
「え、僕が?」
「そう。この中であの石との繋がりが一番強いのは、マコニーさんでしょ?」
「そ、そうだけど・・・」
「大丈夫、自分を信じろ。オレも手伝うんだ、安心して出来るだろ?」
マコニーの肩に手を置くエドワード。
「それに・・・やっぱりこれは、一人前の梟の仕事だ。そうだろ?」
「・・・ありがとう・・・。」
目を潤ませながら言うマコニーに対して、
「おいおい、礼は無事に終わってからにした方がいいんじゃないか?」
と言っておどけるエドワード。
「そうだね・・・じゃぁ、仕上げに取り掛かろう!」
「だぁ、お前仕切るな!オレが仕切る!」
「兄さん・・・」
呆れるアル。でも、する事はする。
「しっかり狙えよアル・・・」
「分かってるよ兄さん。そっちこそ、頼んだよ?」
大砲を肩に担いで狙いを定めるアル。その両脇に、エドワードとマコニー。
「それじゃ、行くよ・・・父さん母さん、僕に力を貸して!」
「撃て、アル!」
「了解!」
ドォン・・・!と低い爆発音。飛んで行く砲弾。
それが空中で割れて、中から青い小さな光が一粒零れ落ちる。
その青い光が溶岩の海に飛び込む瞬間・・・。
「今だ!いけぇっ!!」
「父さん、母さん・・・!」
そして、一瞬視界が真っ白に染まったその後には・・・
・・・目の前に、一面の緑が広がっていた・・・。
「もう一人でも大丈夫だな、マコニー。」
「そうだね。梟は大空に飛び出したみたいだし。」
「アル君、詩人だねぇ・・・もう大丈夫。街の人も優しいし、
  それに・・・ペドロフも居るしね。」
満面の笑みで語るマコニー。もう落ちこぼれとは言われないだろう。
「それって一人とは言わないだろ。」
「兄さん、そこツッコむ所じゃないよ。」
いつもと変わらぬ兄弟の会話。
「お二人共、もう行ってしまわれるので?」
「ボク達にも目的がありますから。」
ペドロフの問いに、アルが答える。
「そう・・・またいつでも来て下さいね。歓迎します!」
「あぁ。今度来た時には、色々ご馳走して貰わないとなぁ。」
「兄さん、またそんな事を・・・」
辺りを見回し、両手を広げて続ける。
「いいだろう。こんなに緑豊かになったんだ、色々出来るぞぉ・・・。」
「兄さん、ヨダレヨダレ!」
そんな話をしながら、二人は歩き出す。
「さようなら、またいつか!」
「またな!」
「さようなら〜。」
手を振るマコニーと、頭を垂れるペドロフに別れを告げる。
・・・と、暫く行った所で、唐突にエドワードが叫び出す。
「くぁぁぁ!まぁた賢者の石手に入れ損なったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「兄さん・・・そりゃそうだけど・・・。」
「ぬぉぉぉぉぉぉ!わざわざ温泉街まで来てぇぇぇぇぇぇぇ・・・」
そんなやり取りをしているとはつゆ知らず。
緑に染まった山肌に、一際高い大木が一本聳え立つ。
その枝には、青く光るペンダントが風に揺れている。
・・・それはまるで、梟の様にヤーンの街を見下ろしていた・・・。
                                                                     [終わり]

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