Blaze&Blade
〜砂の魔女〜
[中編]
<竜の卵>
遥か彼方で、フォレシア最高峰の山が、雲を突く様に聳え立っているのが良く見える。
晴れ渡った青い空に真っ白な綿が鏤められ、そこにその力を誇示するかの如く、
大地が鋭い爪を突き付けている。静かな風が、その光景に現実感を与えてくれる。
「今日も山がキレーだねぇ〜っ。」
「今更何言ってんのよ。さっきからず〜っと見えてるじゃない。」
「フェリアンは”かんどー”ってしないの?」
先程言われた事を、そっくりそのまま返すルゥケット。
「ホントむかつくわねぇ、アンタって奴は・・・。」
いつものケンカ・・・今回は「睨み合い」を、二人は始めてしまった。
そこにロエミールが仲裁に入ろうとする。
「まぁまぁ二人共、今はそんな事をしている場合ではないでしょう?」
「・・・そうね、アタシも大人気なかったわ。ガキと張り合っても仕方無いわよね。」
「ムッ・・・そーそー、血圧上がるヨ、おばさんっ!」
「お、おばっ・・・アンタ、覚悟は出来てるんでしょうね!?」
「そっちこそ!」
『がるるるる・・・!』折角止めに入ったにも拘わらず、逆に争いは激化してしまった。
すると、
「行くぞ・・・。」とだけ言いながら、
睨み合う二人の間を、カーシァが我関せずとばかりに通り抜ける。
それを見て、ロエミールは「ぷっ」と吹き出してしまった。
『笑うなーっ!』声を揃えて叫ぶ二人。
「はは・・・息ピッタリじゃないですか、二人共。」
『むぅ〜っ。』と、これまた同時に頬を膨らませる。
「ケンカをするほど仲が良い・・・というのは、どうやら本当みたいですね。」
「う、うるさいわね!さ、さっさと行くわよ!」
微笑みながら言うロエミールに向かって、フェリアンが怒鳴り気味に言い返す。
「今回はロエミールの勝ち!・・・あれ?オイラは?・・・ま、いっか!」
淡々と先を行くカーシァを追い掛けて、三人はいつもの様に歩き始めた。
「意外と近かったわね。・・・でも、これを登るの?」
山の麓までやって来て、フェリアンが山頂を見上げつつも愚痴り出す。
「登るって言っても、頂上まで登る訳じゃないんだから良いじゃん。」
「それでも、相当疲れるわよ・・・」
空を飛んでいるルゥケットに言われて、ハァ〜ッ・・・と溜め息を吐く。
「最初に”山を越えよう”と言ったのは、貴方ですよ?」
「正論ってのは、嫌われるものなのよねぇ・・・」
(嫌ってるのはアタシだけど・・・。)という想いと共に、またもや溜め息を吐く。
「さぁ、行くぞ・・・。」
「カーシァ、アンタは嫌じゃないの?」
「あぁ。間に合わんからな・・・。」
「あ、そ・・・」呆れた様に言いながら、今度は深く長〜い溜め息を吐いた。
「ま、ちょっとの辛抱だしさ・・・早く行こうヨ。」
「ハイハイ・・・」
ルゥケットに促されて、彼女はやっと歩き出す。が、その足取りは明らかに重い。
この山は、いきなりの急な上り坂なので、重い足取りに更に拍車が加わる。
山の右側(西側)を、半分迂回する様に登って行く事になりそうだ。
黙々と歩く三人の少し後を、フェリアンがブツブツ言いながら付いて来る。
「誰よ、山越えようなんて言ったのは・・・」
「だからフェリアンだってば。」
「あ〜もぉ疲れる〜っ・・・」
どうやら空飛ぶ少年の言葉は、彼女の耳には入っていないらしい。
ルゥケットとロエミールはちょっと顔を見合わせてから、また山道を進み始めた。
少しして、上りは後半分という所で、カーシァが何かに気が付いた。
「どーしたの、カーシァ?」
「音がする・・・。」
「え、何の?」
と言ってから、手で口を塞ぎ、ロエミールの肩に留まる。
昨日に続いて二回目のこの行動。また魔物かと、ルゥケットは身を固くする。だが、
「イテッ・・・何だ?」
頭に何かが当たったので、少年は「それ」を探してキョロキョロし始める。
「・・・石・・・?」
それを聞いたカーシァはバッと上を見る。と、今にも落ちて来そうな岩が目に留まった。
「走れ!」
「え、なんで?」
少年は素直な疑問を口にする。が、その答えを聞かずに走り出す・・・ロエミールが。
「フェリアン、早く!」
「何なのよ、一体!?」
青年に言われ、少女は取り敢えず走る。その声が巫山戯ていないと感じたからだ。
すると突然、フェリアンの直ぐ後ろで轟音が鳴り響いた。
「きゃぁぁっ!」
余りの音と振動で、フェリアンは尻餅を搗いてしまった。
「大丈夫、フェリアン?」
「平気だけど・・・もぉ〜っ、何なの!?」
心配で声を掛けて来たルゥケットに答えてから、振り向きながら叫んだ。
「・・・何よ、これ・・・?」そこで言葉に詰まる。
無理もない。今通って来た道が、直ぐそこで分断されているのだ。
彼女から数メートル後方は、もう”無い”。
多分「あの岩」が落ちて行く時に、山の岩肌を削りながら転がって行ったのだろう。
その証拠に、さっきまで「あの岩」が在ったであろう場所から、この道の更に下まで、
一本の筋・・・落ちた軌跡が描かれている。岩自体はそう大きい物ではない。
だが、道の崩壊したその幅は、優に10メートルはある。
「危なかったぁ・・・あんなのに巻き込まれたら、一溜まりも無いもんネ。」
「じょ、冗談じゃないわ・・・また何かある前に、こんな山早く下りましょ!」
道の割れ目を一瞥し、さっさと先に進み始めるフェリアン。こうなると話は早い。
三人も直ぐに後を追い掛ける。彼女の気が変わらない内に。
しかし、もう何も起こらない様に・・・との少女の想いも虚しく、
一行はこれから、ある重大な事件に巻き込まれる事になるのだった・・・。
登り始めて数時間、丁度上り坂が終わった所で、フェリアンが小さな岩に腰を下ろす。
「ちょっと休んで行きましょうよ〜・・・。」
「一刻も早くこの山を下りたいんじゃなかったんですか?」
またか・・・と思いつつ、ロエミールは彼女のやる気を煽ってみる。
「それはそうだけど・・・疲れたんだもん。暑いし。」
「もう少しすれば谷間の様になっていますから涼しいですよ?」
「疲れたの・・・!」
「・・・そうですね・・・実を言うと、僕も少し疲れました。」
これは何を言っても無駄だと思い、ロエミールも本音を口にした。
しかし疲れたのは、彼女の相手をする事に、だったのかもしれないが。
「うん、皆ずっと歩きっ放しだったもんネ。ちょっと休んでこうヨ。ね、カーシァ?」
「・・・そうだな・・・。」
カーシァはまだまだ行けるのだが、メンバーの事も考えて、少し休む事にした。
だが、この選択が間違っていた事を、一行は直ぐに思い知る羽目になる。
皆が休んでいると、カーシァが急に立ち上がって身構えた。
「どうしたんです?」
「凄まじい殺気だ・・・。」
何事かとロエミールが尋ねると、彼女は額に汗を滲ませながら答える。
「殺気って・・・こんな所で?」
ルゥケットがそう言ったその瞬間、辺りが突然暗くなった。
「な、なになに?何なのよ!?」
と言うフェリアンの言葉を遮る様に、四人の前に風を孕みながら何かが降り立った。
「グゥォォォォォッ!」
その雄叫びは、彼等の足をその場に縫い付けるには十分過ぎた。
「なななな・・・」ロエミールは言葉にならない声を上げている。
目の前には、昼尚暗い森の木々を、そのまま持って来たかの様な巨大な深緑の身体と、
鳥ではない、コウモリの皮膜を連想させる、これまた巨大な翼を振るう、
彼等冒険者達が最も恐れる者・・・そう、ドラゴンが立ち塞がっているのだ。
ドラゴンは「天を裂き、地を割り、海を焦がす」とまで言われる程の力を持った、
最強の魔獣・・・いや、霊獣として「神」と共に伝説にも謳われるているのだ。
そのドラゴンが、何故こんな所に?そんな思いが一行の脳裏を過る。
するとその深緑の竜・・・グリーン・ドラゴンが、首を擡げて四人を睨み付ける。
昨日のワイアームなど比較にならない程に大きく、そして雄々しい。
『小さき人間よ。』
「な、何?頭の中に・・・直接声が聞こえる!?」
全員の意志を代表する様に、フェリアンが声にして呟く。
『汝等、答えよ。我が貴き生命の始まり、道は何処か。答えよ。』
その「声」には、確かな威厳と、激しい怒りが込められているのが分かる。
「たっときいのちのはじまり?何の事よ?」
「わ、判りません・・・何でしょうか・・・?」
フェリアンが投げかけた疑問に、震えるロエミールは答える事が出来なかった。
「卵だ・・・。」
息を飲みながら、カーシァがその問いに答えを示す。
「・・・何でオイラ達にそんな事聞くんだろぉ?」
『答えよ。解無き時は我が怒り、己が流れ溯り、汝等が流れ呑み込まん。』
「えっ、そ、そんなのゴメンだよ!」
ルゥケットは両手と顔を力一杯左右に振りながら言う。すると、
『愁うな、妖精の子よ。汝に影差さず。・・・さぁ人間よ、答えよ。』
「どーしてオイラは大丈夫なのさ?」
『我が貴き生命の始まり、その道闇に覆いしは人間なり。』
「何でそんな事分かるの?」
『天、一縷の涙近し折、我が貴き生命の始まり聞こえ失せ、彼の地に人の色ありき。』
「だからってオイラ達がやったって事にはならないよ!」
「・・・よく判るわね、アンタ。」
今の会話がよく判らなかったらしく、フェリアンが横槍を入れる。
『然らば妖精の子よ。其の者共、我が流れ乱す事非ずと?』
「そーだよ!オイラ達、この山今日が初めてだもん!昨日卵盗むなんて出来ないよ!」
「・・・何か知らないけど、そーよそーよ!」
そこに透かさずフェリアンの無責任な合の手。
『だが、我が流れ鎮る事無し。妖精の子よ、我が望むらくは叶うか?』
「卵を取り返してくれって?・・・もし、断ったら?」
『其の火の種は燃え上がり、次の火種求むるのみ。』
「そんなの駄目だよ!分かったよ、探すよ!」
「ちょっと、勝手な事言わないでよね!嫌よアタシは!」
猛烈に反発するフェリアン。何とか話の概要は理解した様だ。
「そんな事言ったって、皆が殺されちゃうんだよ!?探すしか無いじゃないか!」
「もしかして・・・容疑者は片っ端から減らしてくって事!?じょ、冗談じゃないわ!」
「・・・選択の余地無し・・・か。」
そこでカーシァが口を開く。それを聞いて、フェリアンは黙り込んでしまう。
反論して来ないのが判ると、ルゥケットは具体的に訊き始める。
「で、卵ってどんな感じなの?やっぱり大っきいの?」
『妖精の子、汝に道示す事叶わず。』
「それって、人間にも持てないんじゃぁ・・・?」
『目鼻欺き人間に、その道惑わすなど約まりし事。』
「そうかなぁ・・・まぁいーや。で、見付けたらどうするの?」
『此の笛鳴かせ、妖精の子。さぁ、手を杯とせよ。』
緑竜がそう言うと、一本の笛がルゥケットの目の前に現れた。
「これを吹けばいーんだね。・・・でも、ちょっと大っきいネ。」
1メートル程もある笛を、少年は背中に紐で括り付けながらそう言った。
『では、さらばだ・・・。』
次の瞬間、その巨大な身体が宙に浮く。すると凄まじい風が辺りに渦巻く。
そして直ぐに、その姿は山に掛かった雲の中に消えて行った。
ルゥケット以外の三人は、その光景を黙って見ている事しか出来なかった・・・。
ドラゴンが去って暫く後、四人は輪になって話し始めた。
「あ、あれがドラゴン・・・僕、初めて見ました・・・」
「アタシだってそうよ。・・・でもまさか、こんな事になるなんて・・・」
うぅ〜っ・・・と頭を抱えながら、フェリアンが嘆く。
「だってしょーがないじゃないか、あの時はあぁするしかなかったんだからさぁ・・・」
「それは判ってるわよ。だから悔しいの。言い成りになるしかないなんて。あ〜もぉ!」
と言って頭を掻き毟る。しかし引き受けてしまった事には変わりない。
あのドラゴンの盗まれた卵を探し出し、取り返さなければならないのだ。
それも出来るだけ早く・・・緑竜の怒りが爆発する前に・・・。
「それより・・・」
カーシァが話し始めたので、三人は彼女の方を向く。
「早く帰ろう・・・。」
花の入ったカゴを見せ「今は悩むより先にする事がある」と言わんばかりに付け加える。
「あ、そうだね。早く帰らないといけないよネ。」
「そうよ!早くしないと無駄足になっちゃう!」
「そうですね、宿に着いてから考えましょうか・・・。」
思い出したかの様に(思い出したのだが)一行は急いで山を下り始めた。
急な下り坂が終わって、左手遠方に廃坑の入り口が見える所に出た。
「あれが廃坑の入り口ね・・・って事は、このまま行けば街に着くわね。」
今迄の谷底の様に狭い急勾配とは打って変わって、
緩やかな傾斜・・・殆ど平らな道を歩きながら、フェリアンが横を向いて言う。
今下りて来たこの山。曾てはこの地方最大と云われた鉱山だった。
その山頂と、「キッドの宿屋」のある街を結ぶ線上には、今は「廃坑」の入り口がある。
フェリアン以下三人は、実際にここに来た事は無いのだが、
この辺りの冒険者の間では有名な話なので、知ってはいた。だからそう言ったのだ。
「ねぇ、今度あの廃坑に行ってみようよ。何でも奥に遺跡があるらしいからサ。」
「無駄ですよ、ルゥケット。今迄ここに来ていない理由、忘れたんですか?」
「そーだった・・・フェリアン”わがまま”だからなぁ・・・。」
小声で諭すロエミールに、ルゥケットも小声で返した。
「うわ・・・こっち睨んでるよぉ・・・。」
今の遣り取りが聞こえたのか、彼女はじっと二人を凝視している。
「こ、ここからではまだ街は見えませんね・・・ねぇルゥケット?」
「えっ!?そ、そうだねロエミール。」
恍ける様に、二人は白々しい会話を始める。
「そうねぇ・・・見えないわねぇ・・・。」
「う・・・うん・・・。」
(これは明らかに嫌がらせだ!)と思いながらも、少年は答えた。
二人は、それから暫くは刺すような視線に耐えながら歩かねばならなかった。
最後に少し高めの丘を越えると、長かった山越えも漸く終わりだ。
そして夕日に染まる小さな森を抜ける。
ここまで来れば、もう街は直ぐそこだ。そう思うと、自然と足取りが軽くなる。
これなら、街に着く頃には丁度日が暮れる位の時間になるだろう。
「エレン、宿に居るかしら?・・・そうだ、エレンの家って、この近くよねぇ?」
「そうでしたね。・・・でも、いきなり行くんですか?」
「・・・そうね、エレンいなかったら仕様が無いものね。」
「宿に居なかったら行けばいいヨ。それにここからだと、宿の方が近いし。」
「じゃ、さっさと帰りましょ。」
・・・で、あっと言う間にキッドの宿屋。そして入るなり、
「ただいま〜、エレンいる?」
「あっフェリアン、お帰りなさい。皆さんも・・・。」
無事で良かった・・・と言いたげな表情で、エレンが迎えてくれる。
「ハイこれ。例の<親指花>っての、これで良いんでしょ?」
花の入ったカゴを渡しながら、エレンに確認する。
「えぇ、ありがとう・・・」
「お礼はいいから、早いトコおじいさんに届けた方が良いんじゃない?」
「え、えぇ・・・じゃぁ、今度家に遊びに来てね。御馳走するから。」
「えっごちそう!?行く行くっ!・・・あいた!何すんだよぉフェリアン!」
「うん、今度絶対行くわね。」
ルゥケットの事は無視して(殴ったが)フェリアンはエレンに答えた。
「それじゃぁ、ありがとう!またね・・・。」
ペコリとお辞儀をしてから、エレンは小走りに帰って行った。
その背中を見送った後、四人は顔を見合わせてから、深く息を吐いた。
カウンターの方へ、一行は力無く歩いて行く。
「どうした、元気無いな?」
マスターに声を掛けられたが、誰も声を返さない(一人は元々だが)
当面の目的を果たし、潜んでいた最大の悩み事が頭の中を支配してしまっているのだ。
「目的の花は取って来たんだろう?」
「・・・それはいいのよ、もう終わったから・・・」
やっとフェリアンが、普段と違い重い口を開く。
「だったら何でだ?」
「それがネ・・・大変な事になっちゃったんだ・・・」
比較的ショックの軽いルゥケットがマスターに説明を始める。
「・・・と言う訳で・・・卵探す羽目になっちゃったんだ・・・。」
「ってお前達、そりゃ大事じゃないか!」
説明を受けたマスターが、驚きの声を上げる。
「・・・で、アテはあるのか?」
その問いに、ロエミールが首を横に振って答える。
「だろうな・・・で、どうするんだ?」
「どうするったって、どうすりゃいいのよ!?」
「お、俺に聞くな。・・・どこかで情報集めるしかねぇだろう・・・。」
一連の会話は、溜め息を吐く人数を五人に増やしただけだった。
その夜。
「ねぇ・・・カーシァ、起きてる?」
「・・・あぁ・・・。」
どうにも眠れないフェリアンがカーシァに声を掛けると、返事が返って来た。
「眠れないか・・・?」
「そう言うカーシァこそ・・・」
「・・・そうだな・・・。」
珍しく積極的な会話。こんな時だからであろうか。
「・・・どうするの?」
「どうする、か・・・判らん・・・。」
「アタシだって判んない・・・。」
「だが・・・探すしかない・・・。」
「そうなのよね・・・だから困るんだけど。」
「そうは聞こえんが・・・?」
「・・・悔しいじゃない、何にも出来ないなんて。」
「そうか・・・そうだな。」
「絶対見つけてやるわ・・・見てなさいよ・・・!」
「・・・誰に言っている・・・?」
「そういう所にツッコまないの。」
「・・・すまん・・・。」
「別に謝んなくても・・・ふあぁ〜ぁ・・・もう寝ましょ・・・おやすみ・・・。」
「あぁ・・・おやすみ・・・。」
・・・一方、男部屋。
「・・・ルゥケット、起き・・・」
「う〜ん・・・オイラもう食べれにゃ〜い・・・むにゃむにゃ・・・」
「・・・・・・・・・・・・。」
夜は静かに更けて行く・・・。
朝になり、小鳥の囀りを聴きながら、皆起きて来る。その中にはフェリアンも居る様だ。
「・・・ぉは・・・あぁ〜ぁ・・・よぅ・・・。」
いかにも眠そうな挨拶を引っ提げて、我が儘娘の登場である。
四人揃った所でマスターが切り出す。
「どうだお前達、昨日は良く眠れたか?」
「全然・・・」
しっかりしている様に見えて目が寝てるロエミールだけが否定する。
どうやら彼は、あの後(笑)も殆ど眠れなかったらしい。
デリケートな精神を持つと苦労する、と思わせる全く以て良い例である。
「どうした、カーシァ?」
「・・・あ、何か?」気付いた様に答えるカーシァ。揶揄い気味にマスターが続ける。
「お前さんも本当は眠いんじゃないのか?」
「・・・諄い・・・。」
言われて、マスターは愛嬌混じりにちょっと肩を竦めて見せる。
「ねぇマスター、何で最近人いないの?」
「あ、それアタシも気になってたのよ。どうして?」
いつでも元気なルゥケットと、徐々に頭が冴えて来たフェリアンが不思議そうに聞く。
「何だ知らんのか。じゃぁ教えてやろう。最近また新たに遺跡が見つかったんだとさ。」
「え、どこでどこで?」
一段と元気になる少年。マスターに纏わり付きながら言う。
「・・・確か遺跡の森だったと思ったが・・・。」
「あそこ遺跡多いわねぇ・・・。」
少し迷惑そうにマスターが答えると、フェリアンが思った通りを口にする。
「ん〜・・・でも早速”アイツ”が行ったから、もう無駄だと思うがねぇ・・・。」
「あちゃ〜・・・それじゃもぉ手遅れだねェ。」
「彼が動くと皆さん付いて行きますからね。だから誰も居ないんですか。」
うんうん・・・と、妙に納得する四人。絶大なる説得力。
ここで言う「アイツ/彼&皆さん」とは・・・まぁ、公表するのは止めようと思う(笑)
「さて、と。これからどうする?」
「えぇ・・・モヒさんや詩人さんも居ないとなると・・・後は歩き回るしか・・・」
「そうだな・・・と、カーシァ。その鎧、直した方が良いんじゃないか?」
ロエミールと話していたマスターが、カーシァの鎧の破損を見て取り、そう勧める。
「いや、その暇は無い・・・。」
「そうか、ならいい。」
彼女の性格を知っているからこそ、それ以上の追求はしない。
朝起きて直ぐ、酒場の中で鎧を着ている事についても言及しない。
カーシァがそうしたいのであれば、咎める理由は無いからだ。
「お前さんはどうするつもりだ、カーシァ?」
「動くしかあるまい・・・?」
「だよな・・・。」
マスターがそこまで言うと、不意に一人の人物が近寄って来た。
「やぁ、何の話だい?」
「何よ、居るんなら居るって言いなさいよ、ラルクレイ。」
フェリアンがその人物・・・仮面を着けた男に文句を言う。
「残念。ボクは今”イェルズ”だよ。」
「また変わったの?いい加減統一しなさいよね!」
そう、この仮面の男、直ぐに名前が変わる。だから不便で仕方が無い。
彼曰く「顔にも名前にも大した意味は無いさ。仮の顔には仮の名前だよ。」だそうだが。
「まぁいいわ。で、何の用?」
「いや、昨日から何を話しているのかな?ってね。少し気になっただけさ。」
「昨日から・・・って、昨日から居たの!?」
「ずっとあそこに立ってた訳じゃないけどね。」
窓際を指差して、仮面の男が楽しそうに言う。
「オイオイ、本当かよ?俺も判らなかったぞ!?」
「そうだろうねぇ。でも、無口な彼女だけは気付いてたみたいだよ?」
「そ〜なの、カーシァ?」
とルゥケットが聞くと、驚いていたマスター以下全員が彼女の方を向く。
「そうだが・・・変か?」
その事に気付いていた証拠に、既に彼と挨拶を済ませていたらしい。
先程、マスターが話し掛けた時の”間”は、その為だった様だ。
「伊達に”サイレント・ナイト”とは呼ばれていない、と云う事だね。フフフフ・・・」
サイレント・ナイト。時にカーシァはそう呼ばれる。
”沈黙の騎士”とは、何とも彼女を巧く形容した言葉だろう。「騎士」ではないのだが。
「ちょっと、その笑い方止めてって言ってるでしょ!?」
「ゴメンゴメン。でもこれがボクの笑い方だからねぇ。フフフフ・・・」
仮面を着けてのこの笑い。不気味なのは言うまでも無い。
「ったく・・・で、用があるんでしょ?ラル・・・イェルズ。」
「そうそう、すっかり話が横道に逸れちゃったね。」
と言って話を戻す。本気で言っているのか?と疑ってしまう様な口調でだ。
「困ってる様だから、ボクが一つ助言をしてあげよう。」
「何よ偉そうに・・・。」
フェリアンは腕を組み、明白に嫌がる。それを隠そうなんて全くしようとしない。
「じゃぁ止めるかい?」
「・・・でもまぁ、聞くだけ聞いてあげるわ。」
「それは光栄だね。じゃぁ、一度しか言わないよ・・・」
「勿体振らないで早く言いなさいよね。」
「おやおや、せっかちさんだねぇ、君は。フフフフ・・・」
ムッとするフェリアンを尻目に、仮面の男(今はイェルズ)は続ける。
「また遺跡が見付かったのは知ってるね?」
コクコクと頷くルゥケット。そして人差し指を立てて意味深に言う。
「そこに行ってみると、何かあるかも知れないよ。」
「何かって何よ?」
「それは実際に行って見てからのお楽しみさ。フフフフ・・・」
この男、はっきり言って余りお近付きになりたくないタイプなのだが、
腕は立つし頭も切れる。それに偶にだが、今の様に予言めいた言葉も発する。
だからそうそう無視する訳にもいかない。性格を(見た目も)除けば極めて有益なのだ。
「マスター、遺跡の具体的な場所は何処です?」
こうなったら行くしかない、そう思ったロエミールがそれを行動に移す。
「沼地の先だったと思うぞ。」
「そうだね。ボクも行って来たから確かだよ。」
「そんで、そこに何かあったの?」
「いや。”あった”んじゃなくて”ある”んだよ。だから君達は行くべきさ。」
マスターの頭上から少年が尋ねると、またも深い意味を込めてイェルズが答えた。
「それはアンタお得意の予言って訳?」
「予言なんて出来ないよ。ただ・・・仮面を通すと、世界は違って見えるものさ。」
そんなものなの?と思いつつ、釈然としないフェリアンは切り返す。
「ふ〜ん・・・なら、早速行って見ましょ。」
「そうそう。”栓は急げ”って言うしネ。」
「それを言うなら”善は急げ”でしょうが?」
「アレ?そうだっけ?・・・ま、いっか。あっはっは〜っ♪」
横で二人の漫才を聞いていたマスターが、指で眉間を押さえながら俯いた。
「何か楽しい事が起きたら後で聞かせて貰うよ。フフフフ・・・」
そう言われて街を出てから、既に数時間が経っていた。
それなのにフェリアンは、未だに愚痴を零している。壊れた橋を渡りながら。
「大体アイツは、『何の話だい?』とか言っときながら、全部解ってるんじゃない!」
「まぁまぁ・・・でも、本当に不思議な方ですよね。」
「不思議?不気味の間違いでしょ!?」
ずっとこの調子なのである。相手をするロエミールの苦労が偲ばれる。
当の本人は、もう慣れっこな様だが(流石に幼馴染みなだけはある)
「さて、そろそろ沼地ですよ。いい加減、その話は止めにしましょう。」
「そうね、今更何言っても無駄だしね。」
(だったら最初から言わなければ良いのに・・・)と痛烈に思うロエミールであった。
この先は森の沼地。今通って来た「マルドの大滝」然り「遺跡島」然り、
ここ遺跡の森には、水と緑が豊富にある。その為に、あの沼地も出来たのかも知れない。
「ほら、ロエミール!ぼ〜っとしてると滑るヨ!」
「わたたっ!・・・ふ〜っ、危なかった・・・。」
最後に水面に頭を出した岩を渡れば、直ぐに沼地に続く通路だ。
フェリアン以外の三人はもう対岸に渡り切っている。
彼女も途中までは来ているのだが、そこで何やら考え込んでいる様に見受けられる。
「どーしたんだよ〜、フェリアンも〜っ。そこに何かあんの〜?」
「うるさいわねぇ、何もないわよ別に・・・っと。」
ルゥケットに思考を邪魔され、少々怒り気味に答えながら、幾つか石を渡る。
「さぁフェリアン、僕の手に掴まって・・・。」
最後の一つまで来た所で、ロエミールが彼女に向かって手を差し出す。
「アンタと違って、アタシはそんなにトロくないわよ・・・」
得意気に言いながら、ジャンプ一番、フェリアンの華麗なる跳躍。
・・・が、いくらトロくなくても、着地点に問題があったら話は別だ。
案の定彼女はバランスを崩し、明らかに後方に重心が移って行く。
「・・・あら・・・?」
「フェ、フェリアン!」
咄嗟に彼女の手を掴み、後先考えずに思い切り引っ張るロエミール。
「きゃぁっ!」「うわぁっ!」
どた〜ん!と大きな音を立てたかどうかは判らないが、取り敢えず倒れ込む二人。
丁度ロエミールの上にフェリアンが重なる様にだ。更に抱き合う格好になっている。
暫く経って、自分達の無事が確認されると、その状況に礑と気付く。
目と目が合う二人。その距離、一寸と書いて”ちょっと”。
「な、ななな何やってんのよアンタっ!」
「ご、ごごごごごめんっ!」
顔を真っ赤にしながら飛び退き、背中合わせに正座をする幼馴染み同士。
それを見ていたルゥケット、ニコニコしながら近付いて行く。
「あれれ〜?な〜に赤くなってんの、二人共?」
「う、うるさいわねぇ!何でもないわよ!」
更に顔を赤らめながら、フェリアンが立ち上がる。続いてロエミールも。
そして二人は、ギクシャクした足取りで歩き始める。
すると、止せばいいのにルゥケットが余計な事を言う。言ってしまう。
「あ〜、なんかアツいねぇ・・・」
足元に落ちていた小石を拾ったフェリアンが、それを掛け値なしに全力で投げ付ける。
それは見事標的に直撃。血は出なかったものの、オデコに大きなコブが出来てしまった。
「イタ〜〜〜っ!何すんだよぉフェリアンっ!」
当然の反応。だがしかし、凄い形相で睨まれ、それ以上の反論は出来なかった。
「自業自得だな・・・。」
カーシァに突っ込まれてはもうお終い。
ルゥケットは痛む額を気にしつつ、二人の後に続いて沼地に向かったのだった。
通路を抜けると、そこには広大な沼地が広がっている。
相も変わらず、朽ち果てた北への橋は直されてはいない。
なのにその先に人が住んでいたと云うのだから驚きだ。
過去形なのは、その住人は最早ここには・・・いや、この世にすら居ないから。
だから直す必要も、それをしようとする者も無い。そう云う事だ。
「面倒臭いわねぇ、南から回って行くの・・・。」
いつもの様に、フェリアンが愚痴を零す。が、今回はちょっと違う。
「今日は南に行くんですよ、フェリアン。」
「そうだったわね・・・でもまたゴブリンがバリケードでも作ってるんでしょ・・・?」
一抹の不安が脳裏を過る。不安と言うか、嫌悪感、倦怠感が。
「バ〜ンと壊しちゃえばイイじゃん、そんなの。」
「簡単に言うけど、結構大変なのよ?あれ壊すの・・・。」
無邪気な少年の言葉に、少々呆れ気味に返す。先程のは訂正。やっぱり愚痴だった。
小さな橋を二つ程越え、そろそろバリケードだろうな、と云う地点に来ると、
「・・・アレ?壊されてるヨ?しかも豪快に・・・。」
「本当。誰が壊し・・・って先客がいるんだから当たり前よね、そう言えば。」
バリケードだったらしき物が散らばっていて、何やらゴブリン達が作業をしている。
「アイツ等って、他にする事無いのかしらねぇ?」
せっせとバリケードを直しているゴブリン達を遠目に見ながら、フェリアンが呟く。
「今迄に何回壊されて、そして何回直したのでしょうか?」
どうでもいい疑問を、つい口にしてしまう。ロエミールのその言葉に、ルゥケットが、
「1・・・2・・・3・・・4・・・たくさん。な〜んてネ、ぷぷぷっ。」
「あははっ。そんなモンよねぇ、ゴブリンなんて。」
続いてフェリアンも、結構酷い事を言う。魔法を使うゴブリンもいるのだが・・・。
「そんな事よりも、彼等が作業に夢中になっている内に、進んでしまいましょう。」
「そ〜だネ。確かこの辺に、獣道があるって話だし・・・」
そう言って辺りをキョロキョロ見回す少年。同じく他の三人も。
するとやはり、こう云う事に目敏いカーシァが、道の東側にそれを発見した。
いくら本職ではないにしても、”ある”事さえ知っていれば、見つける事も可能だ。
「早いトコ行っちゃいましょ。ジメジメしてて嫌だから。」
狭い獣道を少し進むと、僅かに開けた空間に出た。西の方から作業の音が聞こえて来る。
「えぇと、更にここにも道がある、って言ってましたよね。多分東でしょうね、また。」
ロエミールの言葉通り、やはり東に続く獣道がある。
だがそれは、道と(獣道とも)言うには余りにも、余りにも狭い。
「・・・ねぇ・・・これを”道”と言い張るの?・・・誰よここ通れって言ったの!?」
その幅、凡そ20数センチ。身体を横にして、やっと通れる位のスペースしかない。
「だが、足跡はある・・・。」
「こんな所通ったら、オイラ羽が傷になっちゃうよぉ。」
冷静に状況を伝えるカーシァの言葉を遮る様に、妖精の少年が困り顔で訴える。
その背中の羽は、以外と大きい。身体を横にしたら、確実に邪魔になってしまう。
「下だ・・・。」
「下?下ってど〜ゆ〜事、カーシァ?」
「・・・そうですね。植物と云う物は、上に伸びるに従って広くなりますからね。」
「木の幹なんかは下の方が少し太いけど、枝とかを考えたらそうよね。」
「だから・・・?」
「アンタも頭悪いわねぇ。ほら、見てみなさいよ。」
まだ解らないルゥケットに向かって、道の下の方を指差し、見る様に促すフェリアン。
「あ、ちょっと広いや。・・・そっか、ここなら身体横にしなくても平気だネ。」
「そ。ちっこいアンタならではね。」
「カッチーン。フェリアンは横になっても平気だもんネ・・・ムネ無いから。」
「言ったわね・・・このっ!」
「あ痛っ!やったな〜・・・とぉっ!」
ぎゃぁぎゃぁぎゃぁ・・・と喧嘩勃発。殴る蹴る、噛み付くと、何でも有り。
隣で見ていたカーシァとロエミールは、無言でそれを眺める事しか出来なかった・・・。
激化の一途を辿る妖魔戦争(妖精vs魔法使い・笑)を唖然と見詰めていた神官が、
ふと我に返り、本来の職務を全うする為に遅ればせながら動き出す。
「ちょ、ちょっと二人共、いい加減にして下さい!」
・・・が、割って入ったタイミングが悪かった。
二人の拳が、丁度止めに入ったロエミールの両頬に、挟む様にヒット。
そして・・・撃沈。突如視界に飛び込んで来た青年が、次の瞬間消える。
どさっ。前のめりに倒れ込むロエミール。
「ロ、ロエミールっ!?」
「ちょっ・・・大丈夫っ!?・・・ねぇ、生きてるっ!?」
仰向けに返し、肩を掴んでガックンガックン振る。・・・本当に死ぬかも知れない(笑)
「へんはわ・・・いへまへんよぉ・・・」
「・・・良かった・・・まだ生きてる・・・」
「自分でやったクセに・・・」
「アンタ他人の事言えないでしょっ!」
「なんだヨ〜!」
「何よぉ・・・!」
またもや怪しい雲行き・・・しかしそこへ、
「・・・いい加減にしろ!」
カーシァの一喝。普段変わらない口調を、今回は荒げて叫ぶ。
張りのあるその声は、辺りの木々に谺し、そして消えた。
それと同時に、西から聞こえていたゴブリン達の作業の音も、ピタリと止む。
少し間を置いて、ザワザワと騒ぐ声。それが徐々に近付いて来るのが判る。
(しまった・・・。)
己の馬鹿さ加減を悔いる。態々敵に自分の居場所を教えてしまったのだ。
それは戦場では死に繋がる。(移動しなければ・・・)そんな思いが交錯する。
「急ぐぞ・・・!」
辛辣な面持ちで二人を促す。その迫力に圧され、彼らは黙って頷く。
先ずはルゥケットを、下部の隙間から四つん這いで進ませる。
その後から、ロエミールをフェリアンと二人で肩を貸す様に担ぎ、
そのまま三人並んで横向きに道に入って行く。当然カーシァが最後尾になる様にだ。
窮屈な思いをして、やっとの事で獣道を抜けると、そこにはまだ森が続いていた。
一際大きな樹の根元にロエミールを寝かせ、今来た道のその向こうに気を配る。
先程まで喧嘩をしていた辺りで、ゴブリンの騒めく声がする。
・・・暫くすると、その声は聞こえなくなった。どうやら獣道には気付かなかった様だ。
カーシァが安心した様子で三人の所に戻って来ると、
「・・・ねぇ。相手はゴブリンだったんだから、急いで逃げる事なかったんじゃない?」
「オイラもそう思う。だいじょぶでしょ、ゴブリンなら。」
「油断は禁物だ・・・。」
その言葉に、二人は「カーシァらしい」と云う一言で納得せざるを得なかった。
「・・・う〜ん・・・」
「あ、気が付いたみたいだヨ!」
数分して意識が戻ったロエミールの目に、ルゥケットの顔が大きく映る。
「・・・僕は・・・?」
頭を振りながら上体を起こす。そして、心なしかヒリヒリする両頬と、
何故かどうも調子の悪い首を確かめつつ、立ち上がって服に付いた土を払う。
「僕は・・・どうして眠っていたのでしょうか・・・?」
ギクッ、と同時に表情が強ばる当事者二人。
「さ、さぁ・・・どうしてかしら・・・?」
「ホ、ホントに・・・ねぇフェリアン・・・?」
引き攣る顔で同意を求め合う。変な汗が額に浮かぶ。更に、気味の悪い笑みも。
「どうしたんですか、二人共。さっきはあんなに喧嘩していたのに・・・」
「なっ仲直りしたのよ・・・そ、そうよね、ルゥケット?」
「え?あ、そっそうだよ、ロエミール。こ、こんなに仲良しさぁ〜!」
と言って少年は肩を組んで高らかに笑う。少女もつられて笑い出す。
一種異様な光景が眼前で繰り広げられている・・・にも拘わらず、
「そうですか、それは良かった。」
と、ロエミールは素直に喜んだ。それを見て、肩を組んだまま固まる二人。
全く予想しなかった反応が返って来たのだから、無理もない。
(ねぇ・・・もしかして、打ち所悪かったのかなぁ・・・?)
(普通、ちょっとは疑うものよねぇ・・・ボケちゃったのかしら・・・?)
「何ですか二人して?ヒソヒソ話なんかしちゃって・・・」
「な、何でもないよ!それより、早く先に進もうよ、ネ?」
「そ、そうよ!さっさと行きましょ、さっさと!」
「ちょ、ちょっと、そんなに急がなくても・・・」
ルゥケットに手を引かれ、且つフェリアンに背中を押されながら、
困惑するロエミールはその場を立ち去った(強制的に)
「あ!遺跡ってアレじゃない!?」
木々の間から、それらしき物が遠くに見えたので、ルゥケットは声を張り上げる。
「その様ですね・・・。」
近付いてみると、大きな岩に遺跡の入り口らしき装飾が為されている。
人が二人並んで入れる位の幅で、少し行くと直ぐに下り階段がある様に見える。
「ここに来ると何かある、って言ってたけど・・・ホントかしら?」
「考えていてもどうしようもありませんよ。取り敢えず中に入ってみないと・・・。」
「そ〜だよね。入ってから考えようヨ。」
その遣り取りの最中、入り口を調べていたカーシァが戻って来た。
「足跡も新しい・・・。」
「やっぱりネ。ここで合ってるみたいだから、一先ず中に入って、それから・・・」
「・・・誰だ!」
ルゥケットの話を遮り、カーシァが左手の薮に向かって叫ぶ。
そして剣の柄に手を掛け、三人を自分の後ろに下がらせる。
ガサガサ・・・と薮が音を立てて揺れる。それを見て、カーシァは剣を抜き、構える。
・・・と、そこから現れた二人を見て、一行は驚いた。
「モヒさん、どうされたんですか、その傷!」
「熱血君!一体何があったの!?」
モヒさんとは、モヒカン兄貴と呼ばれている大男で、酷い傷を負っている。
そのモヒさんに肩を貸している熱血君とは、熱血戦士と呼ばれている、熱い青年だ。
この二人はいつもコンビを組んでいるのだが、両名共頑丈な事で有名なのだ。
その頑丈なモヒさんが、相当の怪我をしている。このまま放って置いては危ない。
「そこに寝かせて下さい。そう、ゆっくりと・・・。」
熱血君にそう指示し、神官のロエミールは魔法の詠唱を始める。
「あ、兄貴・・・」
心配顔の熱血君を他所に、ロエミールは魔法の詠唱を続ける。
「・・・リストア・・・。」
彼の両手から眩い光が溢れ、それが怪我人を包み込む。
そして光りが消え去ると、そこには顔色の良くなったモヒさんが眠っていた。
「これでもう大丈夫だと思います・・・けど、早目に宿屋に戻って休ませて下さいね。」
「あ、有り難うロエミール!一時はどうなる事かと・・・」
半泣きでロエミールの手を取って、何度も礼を言う。
「・・・で、何があったのよ?」
一頻りしてから、フェリアンが怪我の原因を熱血君に尋ねる。
「それが・・・俺が皆と一緒に、この遺跡に来た時に・・・」
数日前。この遺跡に来た者全員で何度か中に入ったが結構奥が深く、昨日になって、
少し外を見回って来ると云う事で、他に何か無いか二人で探し回っていたらしい。
その時、今迄に見た事も無い様な大きさの、まさしく「巨人」に出会ったと言う。
それで、その巨人にモヒさんが戦いを挑んだ所、その強さに加え、
肩に人が乗っていて、そいつが魔法を使って来た。それで敢え無く返り討ちに遭ったと。
ボロボロにやられて、取り敢えず手持ちの傷薬を使ったが、余り効果は無く、
そのまま遺跡に入って助けを呼びに行く訳にもいかず、
近くにあった小さな洞穴で休ませていたのだが、今日になって容態が悪化して・・・
「それで意を決して兄貴を連れて遺跡に入ろうと思ったら・・・」
「タイミング良く、アタシ達が居た・・・と。」
「そうなんだ・・・でも、本当に助かったぜ。」
「これから宿屋に帰るんだよネ?一人でだいじょぶ?」
「あぁ、大丈夫だ。ここからなら、どーって事ないぜ。」
そう言って、すっくと立ち上がる。と、ふと何かを思い出した様で、
「そう云えば・・・俺は後ろ姿しか見て無いけど、あの巨人、何か担いでたなぁ?」
「担いでたって、何をさ?」
その言葉に、好奇心旺盛な少年が直ぐさま聞き返す。
「よくは解らなかったけど・・・何か丸い物だったなぁ・・・そう、卵みたいな・・・」
「卵ですって!?それってどれ位の大きさよっ!?」
「な、何だよ急に・・・えっと、確か〜・・・」
「ハッキリしなさいよっ!」
「た、多分、俺達よりデカイんじゃないかと・・・」
『それだっ!』
一行は顔を見合わせ、声を揃えて、驚きにも似た叫びを上げる。
「それで、その巨人はどっちの方角に行ったんですか!?」
興奮気味にロエミールが問い掛ける。それも、目の前数センチの所で。
「ほ、北東だったと思うぜ・・・」
「間違いありませんか!?」
「ま、間違いない、北東に・・・」
「よーっし!じゃぁ、直ぐに行こうヨ!ねっ?」
「言われなくてもそのつもりよ!いざ、北東に向かってしゅっぱ〜つ!」
「よーそろ!な〜んてネ♪」
そのまま四人は、遺跡には目もくれずに、一路北東目指して突き進んで行った。
呆然と立ち尽くす青年を取り残して・・・。
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