04
「ウォムリグレスト!」
ラグナジアの手から放たれた水の塊は、見事にハリィの口元に直撃した。
「バカめ!!」
「…!!…!」
水の塊に口を塞がれ、ハリィは上手く単呪を唱える事ができない。
その間にもその手に集められた魔法の力は大きくなり、重みに耐えられずに片膝をつくハリィ。
「さて。窒息するのが先か、魔法の暴発が先か…見ものじゃな」
「助けに行ったほうがいいか?」
「でもセスティ、俺らが行ったところであそこまで膨れ上がった魔法を止める事なんて…」
「と、ととととりあえず僕はちりょう魔法をつかうじゅんびをするなのぅ!」
仲間たちの会話が終わる前に、苦しそうにもがいていたハリィの動きがぴたりと止まる。
「とうとう観念したか?」
「………」
ラグナジアの言葉とは裏腹に、顔を上げたハリィの目は真っ直ぐ彼を見つめていた。
口元にうっすら笑みが浮かんだように見えたのは、見間違いではない。
肺に残った空気をすべて使い、もがく音しか出ない口でハリィは思い切り叫んだ。
「げうぃげいぼうぐごぼごえごぼっっ!!」
「ばっ…!!」
驚愕するラグナジア。無理もない、目の前の若い宮廷魔法士は完成させられるはずもない魔法を放ったのだから。
防護壁を張ろうとするが間に合わず、庭師の姿をした元宮廷魔法士は炎の勢いに押されて後方へ吹き飛ばされた。
同時に、ハリィの口を覆っていた水の塊も消える。
「げほっ!ぐえっ!…っかはっ…」
「な…ぜだ」
魔力が高い者であれば、呪文を省いて魔法を使う事ができる。だが、どんな魔法使いであれ単呪なしで魔法を使う事などできないはずであった。
少なくともラグナジアの中では。
「悪ぃな、なぜだか俺様単呪なしでも適当に声出すだけで魔法使えんだよ」
理由はハリィ自身にもわからないのだが。
予想外の出来事にすっかり戦意を失ったラグナジアは、倒れたまま虚空を見つめていた。そして、ゆっくりと口を開く。
「…きっつい冗談かますのぅ」
「冗談じゃねぇっつーのに」
口だけは達者な幽霊に、ハリィは構えを解いてにやりと笑う。
この二人、ちょっと似てるかも…とセスティセリオは密かに思った。
「も〜、俺達寿命が縮まったよ!」
精一杯の力で防護壁を張っていたスレイクスが、疲れきった顔で座り込んでいる。ハリィはそれを横目に、激しい戦闘の後だというのにかなりの元気だった。
「俺様があの程度のジジィに負ける訳がなかろう!また暴れ出したらもう一度返り討ちだ」
庭師を支配していた霊は塚に戻り、暫くは大人しくしているという。だが、
『今回は若い宮廷魔法士に免じて再び封印されてやろう。しかし、なかなか良い戦いじゃった!この時代とお前達をしばらく観察するのも悪くないかもの』
「さっさと成仏しろっつーの!」
元宮廷魔法士ラグナジア。話してみると結構いい奴であった。
一方霊の束縛から開放された庭師タナカだが、元はただの人間のうえに魔法の直撃まで受けているのでダメージがひどく、フェンデ城の救護班が来るまでティンカーの回復魔法による応急処置を受けている。
傷口を一生懸命塞いでくれている妖精に、タナカは最近仕事がうまく行かずに悩んでいた事、そのせいで親方に仕事が甘いと怒られていた事を話し始めた。
仲間や親方を見返そうと思ったが自分には何の力もなく、辞めて故郷に帰っても地元では虐められるだけ。
いっその事自殺でもしてやろうかと思っていたところ、頭の中に声が聞こえたという。
力は欲しくないか、と。
この件でまたしても親方に怒られたタナカだったが、傷だらけの彼を見て泣きながら怒る親方の顔と、同じく泣きながら謝るタナカを見る限り心配はなさそうだ。
「今回は収穫なしでいいトコなしか〜」
がっくりうなだれるスレイクスに、セスティセリオが話しかける。
「いや、木々は多少焼き払われたが君のお陰で我々は無傷で済んだのだ。礼を言うよ、……スライム」
「…名前違いますって。いい加減覚えてよ」
余計にへこむスレイクスであった。
†
つばさをください、つばさをください。羽のないリスは言った。
つばさをあげよう、つばさをあげよう。盲目の鳥は言った。
君の瞳と交換に。
翼を得たリスは飛び立ち、瞳を得た鳥は地を駆ける。
だが光を失ったリスが空を飛び続ける事ができるはずもなく
鳥が細い脚で地上の外敵から逃れられるはずもなく
他人の身体など、所詮自分に合うはずもなかろうに。
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