「い・・・嫌だーっ!」
約2時間後。男子テニス部全員が注目するコートの中央で、今にも逃げ出しそうになって叫んでいるのは、リョーマだった。 手塚の怒りは何にも増して恐ろしかったとみえて、まさに『死ぬ気』で頑張った結果、全員ほぼパーフェクト・・・横並びだったのだ。これで、ペナルティーは無しか?と喜んでいたメンバーだったのだが、女子連中から質問を募った手前それもできず、結局ジャンケンで決めたのである。
「悪りぃな、越前。ま、運も実力のうちってな!」 「頑張れおチビ!骨は拾ってやるからなー!」 「フン、日頃の行いの結果だな・・・」
他人事になった途端、散々な言われようである。怖いもの知らずのリョーマといえど、これは次元が違う。とにかく、救いを求めて周りを見回した。
「ちょ、ちょっとマジ冗談じゃないっスよ?ねえ、副部長!」 「あ、ああ、そうだよ乾。結果は出たんだから、もういいじゃないか」 「でも、女子が黙ってないだろう、それじゃあ」 「ウン、滅多にないチャンスだからねー」 「だけど、手塚にそんなこと聞くなんて、やっぱり自殺行・・・」
「・・・俺が、どうかしたのか?」
ふいにコートの入り口から現われた声に、その場にいた全員がザーっと引いた。
「ぶ、部長ー!」 「練習中に、一体何をもめてるんだ」 「え、いや、それは・・・その・・・」
ついさっきまではやし立てていた連中も、不機嫌そうな(まあこれはいつものことだが)手塚を目の当たりにして、さすがに黙ってしまった。そんな部員を、手塚はますます表情を険しくして不審そうな目で眺めまわしている。
「大石!これは、何の騒ぎだ。大会も近いのに、真面目にやる気があるのか!」 「あ、ああ、すまん手塚、いや、ちょっとその、なんだ」
予想外の展開になってしまい、言い出しっぺの乾でさえも何もできずに黙している。ところが。
「手塚、あのねー?」 「わーっ!不二、やめろぉ!」 「越前君が、君にどうしても聞きたいことがあるんだってさ!」 「げっ!!」 「越前が、俺に?」
テニスコートは、一瞬にしてシーンと静まり返った。リョーマは帽子の下から思いきり不二を睨んだが、もちろん不二はそんなもの意に介さない。にっこりと微笑んで、悠然とリョーマを見返した。
「なんだ、越前。言ってみろ」 「え、えっと」 「はっきりしろ!」 「部長、・・・つまり・・・・・・ええい、くそっ、もうどうなったって俺は知らないからな!」
リョーマはかぶっていた帽子を勢いよく脱いで左手に握りしめ、手塚に向き合い、叫んだ。
「部長!部長には、今、好きな人、いますかっ!?」 「な・・・何!?」
途端、遠巻きに見ていた女子テニス部の連中からきゃーっと黄色い声があがった。女は気楽だ、まさに他人事である。男子テニス部の方は、声も無く、みな一様に青ざめている・・・ただひとりをのぞいて。
「え、越前・・・?」 「だから、部長には好きな人がいるかって聞いてるんっス!どうなんですか?」 「何を言ってるんだお前は!ふざけるのもたいがいにしろ!」 「ふざけてなんかないっスよ!言えって言ったのは部長でしょ!で、どうなんですか!?」 「どうして俺がそんなことを答えなければならないんだ!」
腹をくくってしまったリョーマはしつこく、一歩も引かない構えである。流石にこれはマズイ、と大石・乾が割って入り、怒りで震えている手塚に、なんとか事情を説明した。
「・・・そういうことか・・・!」 「て、手塚・・・その・・・すまん。俺がとめるべきだった」 「いや、今回は俺が悪かったよ。まさかここまで話が大きくなるとは思ってなかった。尤も、アレが手に入ってさえいれば、こんなことにはならなかったんだが」
・・・だから、アレって何よ!? この期に及んで菊丸などはそう思ったが、もちろん手塚が怖くて口には出せなかった。
「そういうことなら、お前ら当然覚悟はできてるんだろうな」
低い声で言った後、すっと息を吸い込んで、手塚は言った。
「・・・これから3日間、練習はランニングと素振りのみだ!全員、今すぐ走れ!!」
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