その日も、穏やかによく晴れていた。テニスコートでは、いつもと変わらぬ青学テニス部の練習が行われている。第一コートでは、白地に青のジャージを着込んだ一団ー青学テニス部レギュラー陣が、特別メニューのために集まっていた。
「よし、皆集まったな。じゃあ、始めるとするか」 「あれ乾先輩、今日は部長は来ないんっスか?」 「手塚なら生徒会の役員会があって、遅れて来る」 「大変すね〜、手塚センパイも。テニス部の部長に生徒会長・・・俺だったら熱出すね、絶対」 「フン、お前が生徒会長になるなんてことは絶対に無い、いらん心配だ・・・」 「あぁ〜?なんか言ったか?」 「おいおい、ふたりともそのへんにしとけよ。で、今日のメニューはなんだ?」 「今日は、手塚が来るまではこの間やったゾーン練習と、カラーコーンの・・・」 「ゲッ、それってもしかして・・・ま、また、ペナル茶が付くとか・・・?」
菊丸の台詞に、一同ぎょっとしたように乾を見た。不二だけが、いつもどおりニコニコと笑っている。
「アハハ、いいんじゃない、今日結構暑いから喉乾きそうだし」 「じょ、冗談やめろよ不二!だったらお前が全部飲め!」 「僕は別に構わないけど、それじゃ練習にならないからね」
笑顔の不二とは対照的に、『乾特製汁』の経験者組ー大石、海堂、そしてリョーマの顔は青ざめている。よほどマズイんだな・・・と『未経験者』の桃城と河村もつられて青くなった。
「いや、残念だが」 「え?」 「今日は、ペナル茶は無いよ」 「あ、そ、そうなんだ?い、いやーそれは残念だなあ!ハハハ!」 「材料が・・・」 「は?」 「材料のひとつが、今回はどうしても手に入らなくってね・・・」
・・・一体、何が入ってんだよ!? 心の底から残念そうな乾を見つめるメンバーの目が、一斉にそう訴えていた。
「ま、まあ、別にペナルティーがなければいけないってことはないし、練習に入ろう」 「うーん、まあそれはそうだけど。今日は手塚もいないし、もっとこう、気を引き締めるためにも何か・・・、 ん・・・?そうか、手塚か」
何か思いついたらしくぽん、と手を打った乾は、眼鏡を押し上げて、不吉な口調で言った。
「じゃあ、こうしよう。練習で一番成績の悪かったやつが・・・」 「奴が・・・?」 「手塚に、普段なら絶対!きけないようなことを二人っきりの場所で質問してくるってことで!」 「嫌だぁーっ!!」
不二以外の全員が叫んだため、驚いた他の部員達が何事かとわらわら集まって来た。
「そ、それはできねえっ!まだペナル茶の方が数倍マシだろ!」 「乾・・・いくら何でもそれは・・・っ」 「俺、まだ死にたくないよ〜っ!」 「・・・・・・」
その騒ぎを眺めて、乾は満足そうに頷いた。
「効果大だな。よし、それでいこう」 「で、でも、何を質問するんすか?それによっては、部長、マジで怒りますよ」 「いや・・・内容はこの際関係ないと思うぞ・・・」 「そうだよ、やっぱり、やめた方がいいって!」 「心配するな、ひととおり終わったら、俺が手塚にちゃんと説明するから」 「後で説明しても意味無いっスよ!」 「ていうか、説明したら余計怒るんじゃ・・・」 「で、質問の内容はどうするの?」
ひとり楽しそうな声の主は、もちろん不二である。大石と海堂が、まるで宇宙人でも見るような目つきで不二を見た。
「問題はそこだな」 「いや、もっと別のところに問題があるだろう!」 「うーん・・・あ、そうだ、どうせだから女子に聞こうよ。きっと沢山聞きたいこと、あるだろうし」 「!!」 「じゃ、僕、女テニ行って早速聞いてくるね〜」 「ふ、不二ぃー!」
今にも泣き出しそうな菊丸を後目に、不二は軽い足取りでコートの外へ消えていった。
そして。 5分もしないうちに、不二は戻って来た。
「どうだった?」 「うん、ほぼ全員一致。・・・大体予想つくと思うけど、聞きたい?」 「できれば聞きたく無い・・・」 「えっとね、『今、好きな人がいるかどうか』だってさ。ねっ、予想通りだろ?」 「最悪だ・・・」
その場にいる全員が、手塚の怒りを想像して凍りついた。今日はグラウンド20周か30周か・・・いや、もっとひどいことになるかもしれない。
「もう一度だけ聞くけど・・・乾、本気か・・・?」 「ああ。都大会も近いことだし、これくらい緊張感があったほうがいいだろう」 「・・・もう、やるしかないってことッスね・・・」 「く、くそーっ!こうなったら、死ぬ気でやってやるー!」 「でも、結局・・・成績が良かろうが悪かろうが、最後はみんな同じ目にあうってことなんじゃ・・・?」
それぞれの台詞を口にしながらメンバーはコートへ入ったが、その時つと、乾が不二の側に寄った。
「不二」 「ん?何?」 「念のため言っておくけど・・・お前、手を抜くなよ?」 「それってどういう意味?・・・まあいいや、大丈夫、そんなことしないから安心して」
笑顔を崩さず不二は答え、ついでにさらっと言った。
「だってこれは、見てる方が、絶対楽しそうだものね」
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