試合に夢中になっていて気がつかなかった。
話しかけようと思って居るはずの場所を見たら、 そこには誰もいなかった。
「あ…れ、乾、手塚は?さっきまで、居ただろう?」 「ん?アップでもしにいったんじゃないか。次は手塚の試合だし」
なにやらせっせとノートに書きこみながら、乾は言った。 不二のシングルスは久しぶりだから、ここぞとばかりにデータを取っているらしい。
「そうか…」
目の前のコートでは、不二の試合が行われている。 1対1、及びノーゲーム1で迎えたシングルス2。 どちらのチームにとっても、絶対に落とせない大事なゲームだ。 両チームの生徒から、割れんばかりの声援が上がっている。 おそらくうちの生徒の大半は、ここで不二が勝てば、 もう、この氷帝戦は勝ったも同然だと、思っているんだろうな。 事実上、これが最終戦だと。 絶対の安心感を持って。
シングルス1は、手塚だから…と。
…試合は、伯仲している。 あの不二でさえ、簡単には倒せそうにない。さすが氷帝だ。 俺の横では英二と桃が、フェンスから身を乗り出して、 食い入るように試合を見ている。
でも、俺は、
なるべく目立たないように、そっとその場を離れた。 後ろから、氷帝の大きな歓声が追い掛けてきても、立ち止まらずに。
「大石?…どうした」
少し離れた練習用コートの近くに、手塚はいた。 もうアップを終えたのか…地面に片膝をついて、バッグにラケットをしまっている。
「いや…姿が見えなかったからな」
そうか、とだけ言って、ラケットをしまい終えた手塚は立ち上がった。 眼鏡のフレームに光が反射して、俺の目を刺す。眩しい。
「試合はどうだ?」 「接戦だよ…やはり一筋縄ではいかない。強いな…氷帝は」 「そうか」
俺が今歩いてきた方向をまっすぐ見つめながら、手塚は頷く。 こういう時の手塚が何を考えているか、正直俺にはわからない。 みんなに言わせれば、手塚はいつだって何を考えているかわからない… ということになるんだろうが、意外とそうでもない。 むしろ、わかりたくないことまで、わかってしまう時もある…。
「河村の手は…どうだろうな…」 「うん…試合が終わったら、病院で診てもらうとは言ってるけど…」
そのあとは、なんとなくふたりとも無言になった。 試合前、タカさんはそんなそぶりを全く見せなかったけれど、 きっと、もう、決めていたんだ。 俺達は何も知らなかった。 でも、知っていても結果は同じだったに違いない。 止めることなんて、できやしなかったんだ。
そうやって納得するしかない自分にいらだちを感じる。 何もできない、自分に。 せめて不二のように、試合で結果を出すことができれば…
「大石」
自分の考えに沈んでいた俺がはっとして顔をあげると、 手塚の視線とぶつかった。 いつもとまるで変わらない表情で。まっすぐ俺の目を見ている。
「あまり、考え込むな。河村が自分で決めたことだ」 「……」 「周りに何か言われて、止めるような奴じゃないだろう」 「…ああ、そうだな…」
知らない誰かが聞いたら、なんて冷たい言葉だって思うだろうけど、 もちろんそうじゃないって事、俺にはわかる。
「手塚…」 「なんだ」 「………」
言っても仕方がないことだ。そう、止めたって無駄なんだ。
でも、言わずにはいられなかった。
「手塚、その、な…腕の方は、本当にもう大丈夫なのか」 「…完治したと、言われた。お前だって聞いただろう」 「それは、そうだけど…でも、跡部は強い。簡単には倒せない」 「…」 「無理をせずに…勝てる相手じゃないだろう…?」
口に出してから、やっぱり言わなければ良かったと、後悔した。 黙っているべきだったんだ。ただ、
ただ、俺は、不安で、
ただ、怖くて、お前が、
テニスをやめてしまったら、
俺の前から、いなくなってしまったら、
それが、怖くて、不安で、
わかっているのに、言わなくてもわかっているのに、それでも、
俺は、
「…大丈夫だ」 「……!」 「心配しなくても、無理はしない」 「手塚…」
嘘だ、お前は、
そうやって、無理をしているじゃないか。
俺を安心させるために、
思ってもいないことを、口にしている。
本当は、お前は先の事なんか考えてない。 みんなと関東大会を勝ち抜いて、全国へ行くことしか考えてない。 それで自分の腕がどうなるとか、そんなことは考えていない。 跡部との試合も、必要とあれば、全力でかかるだろう。 誰が何を言ったって、聞きはしない。
それなのに、俺の不安を見すかして、 俺を安心させるために、そんなことを言ってるんだ。
本当はわかりたくないのに、そういうことはわかってしまうんだ。
「大石、行くぞ、そろそろ不二の試合も終わるだろう」
バッグを右肩に背負いなおして、手塚は俺に背を向けて歩き出した。 不二の勝利を疑ってもいない様子で。 お前は、本当に青学のみんなが好きだよな。 それも、わかるよ。 いや、それは俺だけじゃなくて、きっとみんなもわかってるだろう。
「手塚」
思わず、俺は右手を伸ばして、手塚の左腕をつかもうとして、
「なんだ」
振り返った手塚の横顔を見て、その手を止めた。
そんなことわかりたくはないけれど、
お前にだって本当は不安があるってことが、わかってしまうから、
伸ばした手は、そのまま手塚の左肩に置いて。いつもの笑顔を作って。
「…頑張れよ。氷帝を破って、みんなで全国に行こう!」 「ああ」
お前もいつもの顔で頷く。だから、 もう、何を考えているのかは、わからない。
遠く、聞き慣れた青学のみんなの歓声が聞こえる。 そこへ向かって、俺達は並んで歩いていった。
本当は、もっとお前の事をわかりたいんだ。 それなのに、わかりたくないことばかりわかってしまうから。
だから今は、俺も、無理をして。 ただ、黙ってお前と並んで歩くんだ。
END 大塚…と言っていい…の…?(聞くな) ええと、大石は損な性格だよねって話です(しどい…)。 なんにせよ、ものすごいねつ造なので、 本編が不二VSジロー戦に入る前に無理矢理あげました。押忍。 あ、ところで、ダブルスの桃菊ペアって、勝ってるんだよね!? 氷帝戦は空白地帯なので嘘だったらどうしよう…アワワワ。 |