8階、催し物会場入り口。
大石が窓口で入場券を買うのを待っている間も、菊丸は楽しそうによくしゃべっていた。
「やっぱさー、有名人の人形とかがあるわけ?」 「多分ね。あとこういう場所だと、大抵は…」 「大抵、にゃに?」 「最後はホラー関係…まあ、中世の拷問部屋なんかが来るのがセオリーだろうな」 「うげ!」 「……」 「おまたせ、買ってきたよ。はい、みんな一枚ずつ取って」
大石の手から入場券を受け取り、それぞれ入り口へと向かう。先頭はもちろん菊丸と、菊丸に腕を組まれている大石。次いでどうやら東京タワーの話をしているらしい河村と、不二。少し間を置いて乾。
そして。
しばらく逡巡していた手塚は、乾よりさらに遅れて入った。
会場内は薄暗く、客の話声だけがひっそりと響いている。
通路に沿って右側に、様々な蝋人形がそれぞれシーン別に展示してある。 ハリウッドスターから歴史上の人物まで、どれも精巧に良く出来ており、今にも動き出しそうだ。 はしゃぎながら大石に話し掛けている菊丸の声をぼんやり聞きながら、手塚はゆっくりと歩いていた。
「……どうしたの?手塚」 「……っ!」
いきなり至近距離から乾の低い声が聞こえ、手塚は思わずびくっと体を震わせた。いつの間に並んでいたのか…左側を、乾が歩いている。
「い、乾。急に話し掛けるな」 「ああ、ゴメン。でも、本当にどうしたの」 「……どう…って……別に…」 「勧めた俺が言うのもなんだけど、そんなに嫌だった?」 「……」 「悪いことしたかな」 「いや、いいんだ。俺が断らなかったんだから」 「しかし…」 「お前のせいじゃない、本当に気にしないでくれ」
よく考えれば乾のせいと言えないこともないのだが、それでも手塚は乾に気を使わせないようにと懸命になっている。
(手塚…可愛いやつ…)
乾は思わず口の端に笑いが浮かびそうになるのを堪えるため右手を握りしめたが、手塚はそんな乾に気がつく様子もなく、どことなくそわそわと落ち着かない。
「乾…」 「ん?何?」 「さっきの、話なんだが…」 「さっきって?」 「……いや…やっぱり、なんでも…」 「…ひょっとして、拷問部屋がどうこうってヤツ?」 「!!」
誰が見てもわかるほど、再び手塚はびくっと体を震わせ、乾を見上げた。
「な…な、なんで…」 「イヤ、さっき英二と話してた時の手塚の様子がおかしかったから」 「……」 「なにかあったのかなと思っただけだよ」 「…乾…」
前方から、菊丸の「スッゲー!」という声が聞こえてくる。その声の大きさからすると、ふたりはみんなから随分離れてしまったようだ。 ずっとのろのろと歩いていた手塚の足が、ついに止まった。
「乾…その…」 「何?」 「わ、笑わないで聞いてくれるか…?」 「もちろん、笑ったりしないよ。…どうしたの?」
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