「んんー、にゃに買おうかな〜。シューズの新しいの欲しいし…それと…」 「嬉しそうだな、エージ」 「みんなで出かけるの、久しぶりだからね」 「うん、3年になってから、初めてじゃない」 「ここ最近、試合と練習でずっと忙しかったからな」
数駅先の大型スポーツ用品店で、セールがあるという情報を仕入れてきたのは菊丸だった。
比較的裕福な家の子供が多いとは言え、中学生の小遣いなんてたかがしれているし、夏に向けて色々と欲しい物もある。今日は部活が休みでもあり、放課後久しぶりに3年レギュラーメンバー…手塚、大石、不二、菊丸、河村、乾の6人…で、出かけることになった。
「それにしても、雨が降らなくてよかったな」 「梅雨だから仕方ないけど、毎日雨じゃ練習にならないね」 「ホント、困るよなあ。不二、晴れ乞いとかできにゃいの?」 「…なんで僕なの?」 「だって、不二ならできそうな感じするじゃん〜」 「それを言うなら乾だろ」 「まあ…やり方、知らないわけじゃないけど」 「え、マジ!?」 「…聞きたい?」 「聞きたいー!」 「やれやれ、乾が言うとシャレにならないな…」
興味津々な菊丸に、胡散臭いウンチクを語りながら、乾は自分の横を無言で歩いている手塚を眼鏡の奥からちらりと見た。 手塚は殆ど口を開かないで、黙々と歩いている。別に機嫌が悪いというわけではなく、いつものように考え事でもしているな、と乾は分析した。 なにしろ乾のマル秘ノートは、メンバーの…とりわけ手塚のデータでみっしり埋まっている。解析は完璧だ。尤も、何を考えているかまではさすがにわからないが、テニスの事か、進路の事か。いや、意外と、何も考えてないのかも。無防備な顔をしてるしな…。
ニヤリと笑った乾を見て、大石が半歩、引いた。
スポーツ用品店はそれなりに混んではいたが、それぞれ目当ての物を買うことができ、6人は満足して店を出た。時間は4時を回っていたが、最近は日が長く、まだ外は昼間のように明るい。他愛もない話をしながらぶらぶらと歩きながら駅前のデパートの前を通りかかった時、入り口に貼ってあるポスターをめざとく見つけた菊丸が、大石の手を急にぐいぐいとひっぱった。
「見て見て大石!コレ面白そー!」 「あんまり引っ張るなよ、エージ。何?…蝋人形展…?」 「ねねね、面白そーじゃん?見ていこー!?」 「蝋人形なら、東京タワー行けばいつでも見られるよ、英二」 「乾はわかってないな〜、今、みんなで見るから楽しいんじゃん!ね、行こーよ大石〜」 「うーん…どうする?」 「僕は構わないよ。東京タワーって、行ったこと無いし」 「え、ないの?不二」 「うん。タカさんはあるんだ?」 「子供の頃、家族で昇ったことあるよ。でも、蝋人形は見なかったなあ」 「じゃあ決まり!ね!…あれ、手塚、どしたの」 「え?…いや、別に」
わずかに…本当に極わずかにだが、動揺した手塚の様子に、乾の眼鏡がキラリと光った。
「そうだな、じゃあせっかくだから行くか」 「よーし、そうこなくっちゃ!じゃあ、早く行こー!」 「わかった、わかったからひっぱるなって!」 「ウン、なんだか楽しみだね」 「えーと…8階の催し物会場か、じゃあエレベーターで…」
「……俺は、いい」
やや遠慮がちにそう言ったのは、手塚だった。 表面上平静を装ってはいるが、3.2ミリの動きも捉える乾の目はごまかせない。やはり、動揺している。
「えー!?にゃんでー?手塚も行こうよお!」 「どうした?具合でも、悪いのか」 「そういうわけでは…」
言葉を濁す手塚に、乾はつつっと近寄ると、眼鏡を押し上げながら言った。
「ならいいじゃないか、たまにはこういうのも」 「……」 「息抜きだって必要だし」 「……」 「試合に向けて、メンバー同士の親睦を深めるというのも悪くないだろう」 「……やけに真剣だな…?乾…」 「俺はいつだって真剣だよ、手塚」
あやしすぎるぞ乾…と大石はさらに引いたが、早く行きたくてうずうずしている菊丸が乾に同調してしつこく催促したため、結局手塚も断り切れず…しぶしぶ、みんなの後について、デパートに入った。
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