初夏。青学の制服も夏服に変わり、毎日少しずつ、暑さを増して来る。 そんななか、関東大会へ向け、男子テニス部の練習にも一層熱がこもってくる。 今日は自主練の日だったが、かなりの数の部員がコートで各々練習に励んでいた。もちろんレギュラーも例外では無い。ハードな練習を一段落させた桃城とリョーマは、暑さを凌ごうとコート裏の水道で頭から水をかぶっていた。
「だーっ、あちーなオイ!まだ6月になったばかりだってのによ」 「暑いのはいいけど、このジメジメだけは勘弁してほしいっス」 「そういやお前アメリカにいたんだっけな・・・って、おい、見ろよ越前、あれ」 「あ」
ふたりの目線の先、木立のなかに、青学とは違うジャージを来た二人が見えかくれしている。 桃城は一瞬目を疑ったが、それはまぎれも無く聖ルドルフ学園の観月と不二裕太だった。
「ねえ、『不二先輩の弟』!なにやってんの?そんなとこで!」
リョーマに大声で叫ばれて、裕太はこちらをギッと睨み付けた。
「て、てめえ!俺は不二裕太だっつってんだろ!弟、弟言うな!」 「あーそうだっけ。で、なに?ウチのコート覗いて。不二先輩さがしてんの?だったら」 「なんだよ、こそこそしないで堂々と見に行けばいいじゃねえか。先輩喜ぶぜ!」 「ちょっと桃先輩、俺の台詞邪魔しないでよ」 「あー悪い悪い、でもよ」 「・・・お取り込み中すみませんが」 「あ、アンタもいたの」 「・・・んんっ、まったく、あいかわらず失礼な輩ですね君達は」
観月はスポーツバッグを方にかけ、手にファイルを抱えながら、いつものポーズをとっている。
「やれやれ、君達は礼儀というものがなっていませんね」 「ていうか・・・人の学校に勝手に入ってるあんたらに言われたくねえな」 「そんで、だから結局なにしに来たの?」 「んふふ、知りたいですか?それは・・・」
観月がもったいぶって口を開いたその時、ビュッと風を切って飛んで来たテニスボールが、観月の後頭部にクリーンヒットした。
「つッッ!!」 「ごめんごめ〜ん」 「あ、兄貴・・・!」 「なんか手が滑っちゃったみたい。あれ、誰かと思えば観月じゃない」 「おひさしぶりですね、不二周介君」 「別に会いたく無かったけどね。あれ?さっきのボール、あたっちゃった?もしかして」 「・・・ええ、あたりました。思いっっきり」 「あっそう。ごめん」 「どういたしまして。でも心がこもってませんよ、不二君」
ピンポイントでぶつけておきながら手が滑ったも何もないものだが。 とにかく、表面上、ふたりはニッコリと笑顔で向かい合った。 (え、越前、どうするよ?俺、すっげー逃げ出したいんだけど・・・) (・・・同感っス)
「で、何しに来たの?裕太まで引き連れて。また偵察でも?」 「んふ、違いますよ。今日は、個人的に練習試合をしていただきたくて、お願いにきたんです。ねえ、裕太君」 「は、はい」 「ふーん?練習試合ねえ・・・。悪いけど、今日は出直してくれない?」 「ずいぶんと冷たいですねえ、不二君。わざわざ出向いて来たと言うのに」 「でも今、手塚も大石もいないから。『関東大会の』抽選会なんだよね、今日は」
『関東大会』をことさら強調して、不二はまたニッコリと微笑んだ。
「『裕太と』試合したいのはやまやまだけど、僕達『関東大会』に向けて、忙しいから」 「・・・あいかわらず、素敵な性格ですね、不二君」 「そうかな?君程じゃ無いと思うけど・・・クス・・・」 「んふふふふ」
(アイツも気苦労が多いな、色々と) 黒い笑顔で対峙する二人に挟まれて硬直している裕太を見て、桃城もリョーマも同情せずにはいられなかった。
「んー、まあ、いいでしょう。残念ですが、今日はひとまず引き上げましょう」 「えっ・・・観月さん、いいんですか?そんな簡単に」 「ええ。さ、帰りますよ裕太君」
やけにアッサリと身を翻した観月だったが、その拍子に、観月がずっと抱えていたファイルから、はらり、と何かが落ちた。
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