昨日からオケ部の合宿で白樺湖にやってきた。 なんでも、スキー場がオープンする前のこの時期は まだ安いんだそうで、格安で借りられるのだとか。 景色もよいし、空気もおいしいので毎年ここで行っているんだと 王崎先輩に教えてもらった。
今年は例年よりも少し寒くなるのが早かったらしいけど、 それでも私たちは合宿を楽しんでいた。 そりゃ、練習量もハンパじゃなくて、ご飯の時間が待ち遠しいくらい。 合奏もはじめにやったきりで、パート練習とセクション練習ばかりなので、 和樹先輩にもなかなか会えなかった。
夜は夜で宴会になって(でもお酒は入っていないんだけど) 人気者の先輩はあちこちでひっぱりだこで。 寂しくないっていったら・・・それは嘘になるけど、 でも私は私で楽しかった。 だって、みんな先輩のこと教えてくれるんだもん。 1年の時はこうだったとか、 コンクールの時の私が知らなかったこととか、 それから・・・私のことも教えてくれた。
その話も、なんだか先輩らしくて、でもみんなも応援してくれていたみたいで、 私がオケ部に入るって決めた時にも暖かく迎えいれてくれたんだと思う。
*****
朝、なんとなく早く目が覚めてしまって、 散歩に行こうと思って、コートを取り出して外に出た。
「ん〜やっぱり朝は寒いなぁ〜」
うっすらと霜がおりている道路を見ながら湖畔まで歩いていく。 その途中、この静寂に溶け込むような澄んだ音が響いていた。 はじめは幻聴かと思ったその音は――和樹先輩の音だった。 曲とか、そういうんじゃなくてロングトーンの音だったけど、 私が聞き間違えるはずない。 もっと近くで、一番近くで、この音を独占したくて音の元を探した。
和樹先輩は、ホテルから少しだけ離れた湖畔の白樺の木の下で 湖に向かってトランペットをかまえていた。 ただ、何も考えずに、音を鳴らしているという感じだったけど、 その後姿が風景に溶け込んでいて、自然に足が止まった。 ――邪魔、したくなかった。
しばらく眺めていたが、自分の手が冷たくなっていることから 先輩の手が冷たくなっていることが容易に想像できたので、 ホットドリンクを差し入れしようと思い立ち、自販機に向かおうとした時だった。
「あれ?香穂ちゃん?」
後ろから声が飛んできて、思わず振り返った。
「やっぱり香穂ちゃんだ。おはよう〜早いね。眠れなかった?」
「お、おはようございます、和樹先輩。 なんだか・・・早く目が覚めちゃって、散歩しようかなって」
どうしよう、なんか、変にドキドキしちゃってるかも。
「ふーん。でも、今、帰ろうとしてたよね?」
先輩の声が一段下がる。私は慌てて否定した。
「いえ!あのっ!先輩の音聞いてたくて、でも、寒くて 先輩も寒いかなって思って、ホットドリンクを買いに行こうかと・・・」
私の慌てた様子に、先輩は楽器ケースの上に楽器を置くと そっと近づいてきて、そして私の手をとった。
「ほんとだ、冷たいね」
「先輩の手も冷たいですよ」
「うん、そうかもね。限界かなって思ってもうやめるとこだったから。 ちょっと待ってて。楽器片付けるから、一緒に散歩しようよ」
先輩は私の返事を聞く前に楽器を片付けはじめて、 あっという間に目の前に立った。
「おまたせ、じゃあ行こうか。はい、これ使って?」
そういって差し出されたのは先輩の手袋。
「え?だって、先輩の手袋でしょ?先輩だって手冷たいのに」
「うん、だから、こうして、ね?」
片方ずつ身につけて、あいている手は繋いで、 先輩のコートのポケットの中に。 その中には、こっそりカイロが入っていて、暖かかった。
「俺さ、こっち来てから、あんまり香穂ちゃんと話せなくって ちょっと寂しかったんだよね〜」
「あ、私も!でも、みんなが先輩のこと教えてくれたから それはそれで楽しかったんですけどね」
「え〜!?みんな、変なこと吹き込んでないだろーなー」
こういった会話もすごく久しぶりに感じて (実際は1日ぶりなんだけど) 先輩を独り占めしてる優越感もあってかなり嬉しい。
「ね、先輩はどうして早起きだったの?」
自販機の前でホットコーヒーを飲みながら そういえば聞いてなかったな、と思ったことを質問してみた。
「ん?俺はいつも早いよ〜家が遠いしね。 でも、まぁ合宿の時はあんまり眠れないんだよ」
「どうして?」
「なんでだろうね?なんかワクワクしてさ〜」
たぶん、いやきっと、遠足や運動会前には眠れなくなるタイプの 子供だったんだろうな、と簡単に想像できてちょっとおかしい。
「なんか、先輩らしいです。それ」
「そう?それに、湖に向かって楽器吹くのって滅多にないから 気持ちいいんだけど、朝じゃないと吹けないからさ〜」
「え、そうなんですか?」
「うん、だってご飯食べちゃうと個人練習する時間あまりないし。 楽譜さらうんだったら、外はちょっとね・・・」
だからロングトーンだけだったんだと、妙に納得して、 いつも楽しいからっていうのを全面に押し出している先輩だけど ちゃんといろいろ考えて練習してるんだよなって改めて感じる。
「今日ね、先輩の音、すごい溶け込んでてね。 ちょっと感動しちゃった」
「そう?」
「あの音で『エレジー』聴きたかったなぁ〜って思うくらい。 きっと、景色も違って見えちゃいそうです」
「んーじゃあさ。香穂ちゃんに聞かせたい曲があるんだけど 代わりにそれでもいいかな?」
「え?本当に吹いてくれるんですか!?」
「うん。ちょっと待っててね」
そういって楽器をまた取り出して、 「寒いから時間かかるけど」と言ってマウスピースだけから アップをはじめる。 マウスピースだけで音程が取れるのが不思議でたまらないけど、 金管楽器では普通なんだって。 ただの「ブー」って音だって、先輩が奏でる音だと思うと ちょっと楽しく聞こえてくるのは、ちょっと不思議。
「はい、お待たせ。じゃあ改めて・・・香穂ちゃんのために」
そういって構えた和樹先輩から奏でられた曲は『愛の挨拶』だった――。
最後の一音を吹き終わって、先輩は楽器を下ろしてしばらく空を仰いでいた。 まるで山に反射する余韻が消えるのを待っているみたいに――。 そして、余韻が静かに景色に溶け込んだ頃、 振り返った先輩の姿は、すでにぼやけて見えなくなっていた。 涙が溢れてきて、止めようと思っても止まらなくて。
「・・・いつか、吹こうと思って練習してたんだ。 最終コンクールの日に、香穂ちゃんが弾いてくれたみたいに 俺の想いも香穂ちゃんに届けたくて、さ」
そう言いながら一歩ずつ静かに近寄ってくる先輩の腕が 伸びてきたと思ったら、あっという間に抱きしめられていた。
「香穂ちゃんが好きだよ。だから、俺のこと――ずっと見てて? ずっとそばに居てほしいし、ずっとそばに居させてほしい」
耳元で囁く和樹先輩の声が、 なんだかいつもより甘く感じて、ただ頷いて涙を流すことしか出来なかった。
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「あ、そうだ」
先輩が反対側の湖畔を指差した。
「あのあたりに、テディベアの美術館があるんだって」
「へ〜そうなんですか? ちょっと行ってみたいけど、合宿中は時間ないですよねぇ」
そう呟いた私の手をぎゅっと握って、先輩は微笑んだ。
「いつか・・・・二人っきりで・・・また来ようね?」
こんな先輩を独り占めできて、 合宿に参加してよかった――って思ったのは内緒の話ね。
ぴろりさんとの初合同企画です♪何と!!実は私とぴろりさんは同じ誕生日なんですよね〜(笑) みっちゃんツアーで白樺湖に行った時のことですが、こんなところでコルダメンバーが合宿したら…! なんていう妄想が(笑)自分達の誕生日も近いし、合同でやっちゃいましょ〜ってことになりました(^^) で、ぴろりさん御贔屓の火原っちで創作を書いていただきました!で、私がイラストを担当。。。 この場合、香穂ちゃんとの2ショットイラストの方がよかったのか…とアップする時にふと思ったりι しかもコートを着てるはずなのに(笑)できればコート脱いで吹いたということに。。。(^^;) 本当にすいませ〜ん!!こんな素敵な創作に合わないイラストになっちゃって… by.ちょま

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