5分前。 とうとう、来た。 舞台の袖、上手。 手のひらに収まったものを、キュッと握る。 * ―カタ 考え事をしていたら、襖が開く音がして振り向けば、ユーキが入ってきた。 「あ」 「おつかれ」 え、なにが、と言いかけたところで無駄だと思った。 隠さなくたって、彼は俺の心なんてお見通しだろうから。 これから先、まだ見えぬ目前に、不安を感じていること。 ああ、ユーキの瞳を見ていたら、心に押し込めていた不安がじわじわと滲む気がする。胸が痛い。 俺はこれから、本当にやっていけるんだろうか。 そんな俺を知ってか知らずか(いや、絶対わかっているだろう)、ユーキがしゃがんで覗きこんできた。 「めぐみ、手」 「?なに?」 「いいからはやく、」 だして、と催促される。 言われるが侭に手のひらを出すと、小さな薄くてかたい何かを乗せられて、ぎゅっと握らされた。 ユーキの手は、温い。人形みたいな顔してるのに。あ、これ関係ないか。 「やるよ、」 「え、なに」 「いいよ、開けて」 そう言われて そっと手のひらを開く。 「あ‥」 それを見た途端に、間の抜けた情けない声を出してしまった。 「頑張れ、明日。それで弾けよ」 ‥だめだ、ユ≠キの声に、視界までもが揺らぐ。目頭が熱くなって、まぶたがずっしりと重くなる。 「…‥弾くね。」 もう涙声で、情けない。 ユーキは、ばーか、って言ったけど、照れた笑顔で俯いてた。 いつも様子を見計らって俺を支えてくれる、彼がひどく愛おしかった。 * もう一度、手のひらに収まった、それを見つめる。 まぶたの裏には、はにかんだ君の笑顔。 【お前は今から俺のもの】 ステージへ。 20060712